最終話 東京の黄昏(4)
中森明夫『東京トワイライトエイジ』

bw_manami

2019/05/10

 赤坂のテナントビルのギャラリースペースだった。けっこうな広さの場所が、人でにぎわっている。
〈“RISING SUN” ASAHI・MURAI写真展〉
 ド派手な看板だ。巨大な赤い太陽の写真パネルから文字が飛び出している。
 オープニング・パーティーというやつだ。
 高い天井のスペース、ゆるやかに湾曲した壁面にはずらりと写真が並んでいた。
 太陽、太陽、太陽……赤い大きな太陽だ。
 近づいて見る。
 遠くに動物の影が見える、アフリカの大地に昇る太陽があった。モンゴルのゴビ砂漠の朝日、バルセロナのサグラダファミリアや、カンボジアのアンコール・ワット、中国の天安門広場を背景に浮かぶ太陽がある。
 圧巻だった。
 かつての殴り書き文字は、もうない。英文の小さなタイプ文字が添えられている。パネルの下に表示された翻訳文を読んだ。
〈大陸に昇る人類の始源の光>
〈亜細亜の虚空で太陽は沈思黙考している〉
〈想像せよ(イマジン)……陽光に国境などないのだと〉
 呆然とした。随分と変われば変わったものである。
 それにしても……。
 会場を埋めつくした、この人群れはどうだろう。皆、派手に着飾っていた。外国人の姿も目につく。見知った顔がいない。
 わっと拍手が鳴った。青い瞳の女性コンパニオンが「マエストロ、アサヒ・ムライ!」と呼び込んで、スペースの一端のステージに男が立った。
 長い髪を後ろで結んでいる。よく陽焼けして、立派な鼻ひげをたくわえ、マオカラーの光沢のあるジャケットで、柔和な笑みを浮かべていた。
 これが……あの村井アサヒか! ちょっと信じられない。
「ハロー、レディス・アンド・ジェントルマン」と芝居がかった口調で男が言うと、わっと歓声がわいた。
 スピーチが終わってステージを降りた男は、たちまち取り巻きに囲まれている。
 ぱっと目が合った。
 ニヤッと笑うと、男は人払いをして、こちらにやってくる。
「よお~、中野くん」
 さし出された手を、私はあいまいに握った。
「久しぶりだねえ」
「すごいじゃないですか」と私が言うと、軽く首を振って「ノンノン」と男はもらす。両手を広げ、会場を見廻して「まあ、なんとかやってるよ」と笑った。
 もう、目は泳いでいない。自信に満ちた表情だ。
 すぐにまた取り巻きにつかまって「じゃあ、また」と男は向こうへ行ってしまう。
 さっと手渡された名刺を見た。
 英語の文字がびっしり並んだカードの真ん中に「ASAHI MURAI」とあり、肩書きが添えられている。
〈世界的「朝日」専門写真家〉とあった。

 

(つづく)

東京トワイライトエイジ

中森明夫

作家/評論家。三重県生まれ。1980年代から、ライター、エディター、プロデューサーとしてさまざまなメディアで活躍。著書に、『アナーキー・イン・ザ・JP』、『東京トンガリキッズ』、『アイドルになりたい!』などがある。Twitter:@a_i_jp
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