最終話 東京の黄昏(6)
中森明夫『東京トワイライトエイジ』

bw_manami

2019/05/14

​東京の黄昏を生きるすべての世代のために!  昭和/平成グラフィティー。
アイドル、ライター、カメラマン、作家、エディターたちが繰り広げる、あのころの物語――。
『東京トンガリキッズ』の中森明夫が贈る渾身の青春小説、連載開始!

 

 

 六本木交差点のそばにある書店を覗いた。青山ブックセンターのようなコジャレた店じゃなく、いささか泥臭いこちらの本屋のほうが、今では掘り出し本やネタ本がひろえる。時代だな。サブカル本コーナーで平積みの一冊を手に取った。
『毎日がアドベンチャー』というタイトルが表紙に躍っている。左開きの横書きで、活字が大きい。写真がいっぱい載っていた。〈二十五歳の自伝!〉と帯文にある。
 ぱらぱらめくって、ひろい読みした。
〈世の中ぜんぶ、やったもん勝ち! レッツ・ポジティブ・シンキング!!〉
〈希望は逃げない、逃げるのはいつもおまえだ。ラブ&ドリーム!〉
 なんだ、こりゃ!? バッカじゃねーの、と本を閉じて放り出し、書店を出た。
 地下鉄六本木駅へと向かう階段を降りかけて、ふと足が止まる。なんだか胸騒ぎがした。なんだろう? しばし、そうしていた。
 もう一度、書店へ戻って、さっきの放り出した本を手に取り、買ったのだ。
 高山走著、セイント出版……聞いたこともない著者と出版社である。
 プロフィール欄を見ると、肩書きに「自由人」とあった。高山走は二十五歳で自伝を出すためにセイント出版を立ち上げたという。へぇ、自費出版みたいなものか?
 どうでもいいような写真の上に、絶妙にダサい自己啓発ポエム的な文章が載っかっている。とても私の美意識には合わない。それでも、なぜか心に引っかかった。
 数日後、本の巻末に記されている電話番号に思いきってかけてみた。
「はい、セイント出版です」
「あのー、高山走さんにご連絡したいんですが」
「えっ、高山走はボクです。どちらさんですか」
「あっ、すいません、中野と申します。ライターの中野秋夫です」
「ナカノ……アキオ……あ~、〈おたく〉の名づけ親の? 中野秋夫さん! マジっすか。お~っ」
 声が明るくなり、トーンが上がった。本を読んで、興味を持ったと伝えると「ぜひ、うちに遊びに来てくださいよ!」と弾んだ声が返ってくる。
 三田の慶応大学の正門前に、黄色い看板を見つけた。メガ盛りで有名なラーメン店だ。一階に〈日本一熱いラーメン屋〉の表示があり、その三階には〈日本一熱い出版社・セイント出版〉とあった。笑ってしまう。

東京トワイライトエイジ

中森明夫

作家/評論家。三重県生まれ。1980年代から、ライター、エディター、プロデューサーとしてさまざまなメディアで活躍。著書に、『アナーキー・イン・ザ・JP』、『東京トンガリキッズ』、『アイドルになりたい!』などがある。Twitter:@a_i_jp
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