最終話 東京の黄昏(6)
中森明夫『東京トワイライトエイジ』

 セイント出版の扉を開けると、雑然としていた。若い連中が数名、わさわさしている。デスクの下で寝袋にくるまって寝てる奴もいた。狭くて、汚くて、臭い。出版社というより、なんだか大学の部室のようだ。
「お~、中野秋夫さん!」
 高山走は、笑顔で出迎えてくれた。
 丸顔で気さくな、どこにでもいるアンちゃんである。カリスマには見えない。
 紙コップにウーロン茶を入れて出してくれ、雑然とした中で話した。
 セイント出版は去年、立ち上げたばかりで、その前はバーテンをやっていたという。映画『カクテル』を観て、憧れ、飛び込みでバーで働いた。借金して店を出し、繁盛させ、二年で四店舗に増やした。すべて仲間に譲ったという。けっこうなバイタリティーだ。オレの人生、面白いかも? 自伝を出したい……じゃあ出版社を創ろう、えいやっ! と起業したのだそうだ。
 ちょっと私の周りにはいないタイプである。元気で、バカっぽい。何よりストレートに、やりたいことを思いっきりやってる感じが、気持ちいい。私の美意識とは真逆だ。歳はひと廻り下の団塊ジュニア。同世代だったら、うざかっただろうな。でも、今は違う。私も、もう歳だ。こんな元気でバカっぽい、若い奴に、好感を持った。
 その場の連中を全員、引き連れて、近所のイタメシ屋でおごってやった。みんな奇声を上げて、大騒ぎだ。
 久しぶりに気分が明るくなった。

 

〈中野文化新聞〉に高山走を出した。毎週のように彼とセイント出版を応援、宣伝、大ブッシュする。反響は大きかった。悪評もまた。
「中野さん、なんであんなダサい奴を持ち上げるんですか?」「高山走って最悪! かっこ悪いっすよ!」「セイント出版って何なんすか? 本もデザインもダサダサだし」
〈中野文化新聞〉で紹介したサブカル系の連中が猛反発した。大ブーイングの嵐だ。なるほど、たしかに高山走は彼らのセンスを強烈に逆なでした。九〇年代の自意識系ともまるで違う。
 だけど、それがよかった、私には。時代に合ってようと、なかろうと、構わない。
「いつまでもこの時代が続くわけじゃない」
 いつか誰かに言われたことを思い出す。
「何重にも武装して、隠してるけど……その奥に、きらっと光るものがある。恥ずかしいぐらい、まっすぐで、バカ正直なものが……」

 

(つづく)

東京トワイライトエイジ

中森明夫

作家/評論家。三重県生まれ。1980年代から、ライター、エディター、プロデューサーとしてさまざまなメディアで活躍。著書に、『アナーキー・イン・ザ・JP』、『東京トンガリキッズ』、『アイドルになりたい!』などがある。Twitter:@a_i_jp
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