最終話 東京の黄昏(9)
中森明夫『東京トワイライトエイジ』

bw_manami

2019/05/17

​東京の黄昏を生きるすべての世代のために!  昭和/平成グラフィティー。
アイドル、ライター、カメラマン、作家、エディターたちが繰り広げる、あのころの物語――。
『東京トンガリキッズ』の中森明夫が贈る渾身の青春小説、連載開始!

 

 

 えっ!
「朝日じゃない、夕日なんだ、この写真は」
 愕然とする。
「名前を変えたんだよ、俺」
 そういうことだったのか。検索しても、出てこないわけだ。
「昔、朝日を撮った場所を、もう一度、廻って、今度は夕日を撮っている」
 なるほど。私は口を開く。
「〈昇る朝日は、地球の裏側じゃ、沈む夕日だ〉、か」
 ぱっと男の顔がほころんだ。
「よく覚えてるねえ」
 恥ずかしそうに笑う。
「まあ、俺も、今や夕日の年齢だしね」
 ひとり言のように呟いた。
「中国の上海とか、深センとかへ行くと、よくわかるよ。ああ、朝日はこっち側なんだなってさ。そう、東京はもう……夕日だよ」
 ぽつりと言う。
「東京の黄昏だ」
 男が、目でテーブルの上を示した。
「そこのカメラを……」
 おずおずと手を伸ばして、一眼レフを持ってみる。意外と軽い。
「俺の武器だよ。これで世界中を廻って、戦ってきた」
 言葉に、どこか含みがある。
「気がつかないか?」
 えっ。首をひねる。
「シャッターを押してみな」
 言われて、そうしようとして、とまどう。
 あれっ……どういうことだ。シャッターボタンが左側にある。サウスポー用? そんなカメラってあるんだろうか?
 思えば、目の前の男は、ずっと左手でフォークを持ってパスタを食べていた。
 左利きだっただろうか?
 奇妙な感情がのどもとにこみ上げてくる。
 なぜか、それまで下に隠していた右手を、初めて男はテーブルの上に乗せた。
 白い手袋の指の部分にふくらみがない。空洞のようだ。

東京トワイライトエイジ

中森明夫

作家/評論家。三重県生まれ。1980年代から、ライター、エディター、プロデューサーとしてさまざまなメディアで活躍。著書に、『アナーキー・イン・ザ・JP』、『東京トンガリキッズ』、『アイドルになりたい!』などがある。Twitter:@a_i_jp
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