缶詰で飲む
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

晩酌宇宙

 

缶詰をつまみに飲むお酒って、いいもんですよね。

 

缶詰、そもそもは長期保存を目的としたあの形態なのであって、同様の料理であれば、冷静に考えて、できたてのほうが美味しいに決まっている。けれども妙~にうれしく、わくわくしてしまう、あのおもちゃのようなサイズ感。それをパカッと開けて、ちまちまとつまみ進めてゆく、おままごと感。必然、酒の進み具合も「ちびちび」ということになって、ものすごく安上がりなのに、なんだか贅沢なことをしているようにすら感じてしまう。あぁ、想像しただけで顔がニヤけてきます。
どんなに雑多な飲食店の店内であっても、または散らかった食卓の上でも、「お盆」を1枚目の前に置き、その上に酒やらつまみやらを好きなように配置することによって、ミニマムな自分だけの晩酌環境、極端に言えば「晩酌宇宙」が誕生し、飲み食いの悦楽に没頭できるものですが、缶詰はその最小単位である、ともいえるのかもしれません。

 

僕が好きなのは、もうダントツで「さんまの蒲焼」。
子供時代、実家にストックしてあった定番だったことも大きいのですが、あの重なり合ったサンマの身を包み込む、てりっとしたタレ。くっついた身を箸でほぐし、真っ白な炊きたてご飯に乗せ、その上から、缶詰に残った濃厚甘辛ダレを回しかけ、おもむろにかっこむあのうまさといったら! 人生、最終的にあの「さんまの蒲焼ご飯」さえ食べられる状況であったなら、それだけで大成功といえるでしょう。
もちろんつまみにするのも大好き。基本的には温めもせず、そのまま。七味か山椒をちょっとかけるくらい。それで、これまた冷の日本酒か、焼酎の水割りあたりをちびりとやると、これはもう、誰もが実践できる幸せへの最短ルートと言っても過言ではないでしょうね。

 

「缶ベキュー」の「駒形どぜうスタイル」

 

最近は、缶詰にもいろいろあります。おつまみに特化した洒落たものなんかもたくさん出ていて、自分が普段使い用に買うにはちょっと割高感があったりもするけど、お花見や宴会に持っていったり、何気ないタイミングで人にプレゼントしたりすると、必ずひと盛り上がりする便利なアイテムです。
とはいえ、先日店頭に並んでいるのを見た、タラバガニの一番脚肉だけを集めて金箔をあしらった高級缶詰、1万円也、なんてものには、自分は一生手を出せそうにありませんが。

 

飲み友達であり、共に「酒の穴」という、活動は酒を飲むだけというユニットをやっているスズキナオさんに教えてもらった楽しみ方に「缶ベキュー」というものがあります。主にキャンプなどで使われるコンパクトなタイプのカセットコンロに、缶詰をそのまま乗せ、ゆっくりグツグツと炙りながら食べるという、つつましきバーベキュー。
自宅でもできますが、一度、わざわざ都内のバーベキュー場に男ばっかり数人で集まり、大量の缶詰を持ち寄って缶ベキュー大会をしたことがあります。周囲で純粋にバーベキューを楽しむ真っ当なヤング集団やファミリーたちからしたら大変みすぼらしかったでしょうが、当の本人たちはむしろ、どこか浮世離れした貴族にでもなったような気分。ものすご~く楽しいので、ご興味があればぜひ一度お試しください。
ちなみに缶ベキューを行うにあたっては、調味料や薬味はいろいろあったほうがより楽しい。缶ベキューマスターであるスズキナオさんが「けっきょく最後にたどり着く」と語るのは「鯖の水煮缶」で、そこにオニオンスライス、マヨネーズ、黒コショウをたっぷりとかけたのが究極だそうです。
僕のおすすめは、大好きな「さんまの蒲焼」に、長ネギの輪切りと山椒をたっぷり。サンマの身が無くなっても長ネギを追加すれば無限に酒が飲めてしまうこの食べ方を、サンマ缶の「駒形どぜうスタイル」と呼んでいます。

 

炎を眺めつつ缶詰を楽しむ

 

そういえば先日、「クロスウォーマー」という調理器具を買いました。
いたってシンプルな金属製の携帯用五徳で、缶詰を乗せられるほどの大きさしかなく、その下にはキャンドルをセットするホルダーがある。つまり、缶詰を炙るためだけに開発された商品というわけ。
なにしろキャンドルの炎なので、温まるまでにはやたらと時間がかかるんですが、部屋の照明を落とし、ゆらめく炎を眺めつつ、じっくりとホテイの「やきとり」缶あたりが食べごろになるのを待ちながらウイスキーなど飲んでいると、まるで自分がソロキャンプにでも来たような気分になってきて、なかなか優雅なもんです。

 

缶詰については一家言あるという方は多いでしょうし、語り出したらきりがないですよね。
今日だってまだ、ツナ缶の話もできていなければ、オイルサーディンや牡蠣の燻製などの洋モノの世界も奥深い。すっかり定番となったタイカレー系も忘れてならないし、ノザキの「ウインナーソーセージ」で一杯やるなんてのも渋い。
中でも最近、僕が感動したのが、北欧系の家具及び雑貨店「IKEA」の食品売り場で見つけた「タラのレバーの燻製」なる缶詰。300円くらいと比較的手頃で、物珍しさもあり、何気なく買ってみました。
その名の通りの商品なのですが、パッケージの裏面に「ポン酢をかければ和風のおつまみに」と推奨されており、素直に真似してみたところ、驚くべきことに、これがほぼほぼ「アンキモ」! 大変気に入り、その次にIKEAへ行った時には5つほど買いだめ、たま~に「あれ、開けるか」なんて気分の夜がやってくると、うやうやしく刻みネギやもみじおろしなんかを用意して楽しんでいます。
そんな夜のお供は、耐熱ガラスマグカップに日本酒を注ぎ、先のクロスウォーマーに乗せてゆっくりと温めた「ぬる燗」あたりが最高じゃないでしょうか。

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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