二子玉川に大衆酒場はあるか?
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

「二子玉川」への劣等感

 

「つつまし酒」なんてタイトルでコラムを書いている僕はもちろん、今それを読んでいるあなたもまた、「二子玉川」という街には、どちらかといえば苦手意識をお持ちなんじゃないでしょうか?

 

数年前に完成した「二子玉川ライズ」を中心に、完璧に整然として、おしゃれな街並。値段ではなく質を重視したセレクトショップが立ち並ぶモール。そこを悠々と闊歩する、ニコタマダムたち。
場末者の自分にはすべてがまぶしく、「早く地元の練馬区に帰りたいよ~」と泣きだし、その場にへたりこんでしまう。
というのは大げさにしろ、駅前エリアの「隙のなさ」に若干の息苦しさを感じてしまうのは正直なところです。

 

今回は、そんな二子玉川に、自分のような者が落ち着いて飲める昔ながらの大衆酒場はあるのか!? というお話。

 

 

はるかに見える赤い灯は……

 

先日、とあるトークイベントに出演することになったのですが、その会場が二子玉川でした。今回、いきなり偏見たっぷりの恨みごとのような文章で始めてしまいましたが、知らない街を散策するのは僕の趣味。それがどんな街であれ、楽しみであることに変わりはありません。
都合よく前の仕事がスムーズに終わり、会場入りまで小一時間の空きができたので、二子玉川で酒場探索をしてみることにしました。

 

冒頭で述べた通りの風景が広がる駅前エリアを抜け、あてずっぽうで歩いていると、すぐに「柳小路」という場所に出ました。数多くの飲食店が密集しており、店頭に赤ちょうちんが下がっているようなお店もあるものの、近年全体がトータルにデザインされたに違いない、スタイリッシュなエリア。それが悪いなんてことはもちろんありませんが、今求めているのは、もっと年季の入った赤ちょうちんなんですよね。

 

こういう時、僕が大切にしているのは「ないに決まってる」ではなく「あるに決まってる」と信じる気持ち。さらに探索を続けましょう。

 

 

柳小路の端に隣接する「厚木街道」の高架下を抜けると、お! どう見ても歴史を感じる中華料理屋があります。そこを起点に北へ向かって真っ直ぐ伸びているのが「二子玉川商店街」。
昔ながらの自転車屋がある! 和菓子屋がある! 寿司屋がある! 魚屋がある! 家庭用の燃料店がある!  な~んだ、二子玉川、駅前を少し離れれば、ちゃんと人々の生活を感じられる街じゃないですか!
一気に親近感を覚え、さて肝心の酒場はどこだ? と歩みを進めます。

 

駅から10分弱も歩いたでしょうか。そろそろお店と住宅の比率も逆転しはじめるという頃、数十メートル先に赤ちょうちんらしき明かりを発見。
「よし、あそこまで行って、めぼしいお店じゃなかったら、戻ろう」
これ、酒場探索あるあるですよね?

 

はたしてそこには、まさに僕の求めていたタイプの赤ちょうちんが灯る大衆酒場がありました。店名は「のんき」。店頭にメニューや値段のヒントになる情報はありませんが、佇まいからして間違いないだろう。
カラリと戸を開け、入店。

 

 

ここだった!

 

カウンターはなし。テーブル席少しの、シンプルでこぢんまりとした店内。イメージよりもだいぶ真新しい内装でありながら、長年の歴史を感じる空気が確かにあり、近年改装でもされたお店なのでしょうか。

 

明るくよく声の通る女将さんと、寡黙ながらも物腰の柔らかい旦那さん。どちらも自分の親かそれ以上の年代に見え、すでに安心感と居心地の良さを感じてしまっています。

 

まずは生ビール。それから、あまり手間のかからなそうな「梅しそきゅうり」をお願いしましょう。すぐに到着。
この梅しそきゅうりがとても良かった。350円と手頃な価格でありながら、カレー用くらいの大ぶりの皿に、荒く刻み、梅であえられたきゅうりがたっぷりと、それを覆い尽くすように、刻んだ大葉とかつおぶしが、これまたたっぷり!
ぽいと口へ運び、酸味と青く清涼な香りが残っているところへ、ビールぐびぐび。……っぷはー!
はい、もう完璧。完璧に幸せ。

 

さて、何かもう1品くらい頼んでみたいところです。
メニュー数はぜんぶで20品くらいとそんなに多くないものの、幅広く興味を惹かれる料理が揃っていて、迷います。「とんかつ」が気になるけれども、今日はそんなに時間があるわけじゃないし、もう少し手早くできそうなものがいいかと、「ナスニンニクみそ」なるものを追加。
想像していたのは、中華風の「ナスの味噌炒め」のようなものだったんですが、現物が到着してこれまた驚かされました。

 

細長い角皿に整然と並んだ、素揚げされたナスが2本ぶん。その上に上品に、香ばしい香りを放つニンニク味噌。料亭のコース料理の途中で出てきてもおかしくないような、華麗極まりない一皿なんですよね。

 

パリッと食感の良い皮と、熱々の、とろりと甘い実。旨味濃厚なニンニク味噌と合わせると、これが感動的な美味。
思わずお酒を1合追加し、そのハーモニーを心ゆくまで堪能しました。

 

 

女将さんからのサプライズ

 

この日のイベント後、関係者と僕の計4人で、軽く打ち上げをして帰ろうということになりました。途中、「さっきこんな居酒屋に寄ってみたんですけど、良かったですよ」なんて世間話もしていたので、じゃあそこへ行ってみよう! ということになり、まさかの、1日に2回目の「のんき」へ。

 

無論「ここはね、ナスニンニクみそがうまいんですよ。届いたら驚きますよ」なんて常連ヅラを披露し、さっきよりは時間に余裕もあるので、とんかつも注文。これがまた、カラリとジューシーに揚がっていて、大変にうまい。

 

たっぷり楽しみ、さてそろそろですかね~、なんて話をしていると、予想外のサプライズまでありました。
なんと女将さん「1日に2回も来てくれた人なんて初めてだから」と、タイとタコの炊き込み御飯をそれぞれ2個ずつ、つまり人数分、巨大なおにぎりにして、サービスで出してくれたんです。
もちろん、そろそろ閉店の時間で、余らせてしまってももったいないから、というような事情もあるのかもしれませんが、その心遣い、そして、「覚えていてくれたんだ!」という驚きが、酒飲みとしてあまりにも嬉しい。

 

しみじみと美味しいこのおにぎりを締めに頬張りながら、「二子玉川大好き!」そう心の中で叫んだことは言うまでもありません。

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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