ボート乗り場のたこやきそば
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

bw_manami

2019/03/22

 

そんなメニューあったっけ!?

 

ある休日の昼下がり、僕は、石神井公園のボート乗り場わきにあるベンチで、フライドポテトをつまみに「氷結」のレモン味をすすっていました。

そこには、軽食やスナック菓子、飲み物、それから、公園で遊べるちょっとしたおもちゃなどの売店があり、周囲にはテーブルやベンチがたくさん設置されていて、老若男女問わず、ひとり友人カップル家族づれなど、幅広く地元民たちの憩いの場になっています。駅前に買い物に出た帰り道、あまりに天気が良かったもので、休憩がてらにそこで一杯ひっかけていたというわけ。

レンチンふにゃふにゃポテトの食感や塩気もまた良い味わい。普段はあまり選ばないけれども売店にあったので買ってみた甘い系の缶チューハイ、氷結のフレッシュなレモン感との相性も良く、「うんうん、いい休憩になったな」と、ひとりしばらく悦に入っていました。

 

そんな平和な時間に衝撃が走ったのが、売店の店員さんによるこの一言。

 

「たこやきそばの方お待たせしました~」

 

……!? たこやきそば? 何それ。たこ焼き入りのそば? タコたっぷりの焼きそば? そんなに斬新で興味深いメニュー、この店にあった!?

突如緊急事態に突入し、大慌てでメニュー表を確認すると、なんと一番上の列に写真入りで、「たこやき」「やきそば」と並んで「たこやきそば」とあります。自分が頼んだフライドポテトの5倍くらいのスペースを使って! メニュー表というものは、見ても見ても新しい発見がある楽しい世界ではありますが、それにしてもなんて節穴なんだ、自分の目。こんなにおもしろそうな一品が視界にすら入っていなかったなんて……。

 

写真を見ると、先ほどの自分の予想はどちらもはずれ、シンプルにたこ焼きと焼きそばがあい盛りにされたプレートのよう。それを受け取りに行ったのは20代くらいのこざっぱりとしたメガネの男性で、どうやら彼女とデート中。席に戻ると、仲むつまじく、一皿のたこやきそばをシェアしています。

ボート乗り場でたこやきそばなんて、あの男、相当な恋愛上級者、稀代のモテ男だな……。

そんな敗北感とともに冷め切ってしまった残りのポテトを氷結で流し込んだ僕が、次の休日に「たこやきそば飲み」をしないなんてほうが、むしろありえない話ですよね?

 

 

たこやきそば飲みへのステップ

 

よく晴れた3月中旬の休日、ポカポカ陽気の昼下がり、僕は、たこやきそば屋、もとい、ボート乗り場の売店にふたたびやってきました。

冷蔵ケースから氷結レモンを取り出してレジへ行き、声が上ずったりなどしないよう慎重に、さも何気ないふうを装って「あと、たこやきそばください」と注文。よし、まずは第一関門クリアだ。

 

第二関門は注文の受け取り。商品受け渡し窓口が見える角度のテーブル席に座り、「たこやきそばの方~」の声が聞こえたら迅速に、かつ颯爽と受け取りに向かわなければなりません。とはいえ、あんまりそわそわしているのもみっともない。悠然と氷結を飲みつつ待ちますが、ま~味のしないこと!

こうして振り返っていて思うんですが、一体僕、何を意識してるんですかね? 誰もお前のことなんか気にしてないっつーの。

 

 

たこやきそばの実力は?

 

さて、たこやきそばはものの2~3分で完成しました。プラスチック製トレイの上に、白い発泡スチロール製横長皿。そこにたっぷりの焼きそばが盛られ、左すみに大きなたこ焼きが3つ、たっぷりのソース、青のり、カツオ節をまとって鎮座しています。別添えで袋入りの紅ショウガ。

たこ焼きにはどちらかというとマヨも欲しいタイプなんですが、受け取り口には置いてなく、とっさに「マヨネーズはないですか?」などと聞いて不審者と思われたらどうしよう……という小市民丸出しの逡巡が生じ、今回はがまんすることにしました。

 

まずは焼きそばを一口。

細くしっかりとした麺に、どこか大人っぽいソース味が絡み、B級な見た目に反してなかなか本格的な美味しさです。おもむろに氷結をごくり。お、こんどはちゃんと味がするぞ。

 

それからしばらくは、具材のキャベツ、ニンジン、紅ショウガ、貴重な豚肉などと麺を組み合わせつつ、焼きそば飲みを楽しみます。自分の中で「そろそろだな」という機運が高まったところで、いよいよたこ焼きへ。

 

大ぶりのたこ焼きは、外はカリッ、中はフワッ、というのとは違い、どこか野暮ったいムニャムニャタイプで、これはこれで好き。モクモクモクと、粉っぽさとソース味のハーモニーを味わったら、氷結をごくり。よしよし、こっちも合うぞ。

 

 

はい、これでやっとすべてのストレスや緊張感から解き放たれ、自由な時間が訪れました。あとは思うがまま、あっちこっちつつきつつ飲んで、堪能するのみです。

 

僕としては、箸で3等分くらいに割ったたこ焼きに少しだけ焼きそばの麺をトッピングする、「真のたこやきそば」とでもいうべき食べかたがけっこう美味しかったのが、新たな発見でしたね。

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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