バナナはつまみに入りますか?  
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

 

こんなところに駄菓子屋が

 

仕事場の近くの裏道に、唐突に一軒の八百屋、兼駄菓子屋さんがあるのを見つけました。駅前の商店街とかではなく、普通の住宅街にポツンと、まるでそこだけ時空が歪んでいるかのように。
以降ずっと気になっていたんですが、ひとつしかないお店の入り口に店主と思しきおじいちゃんが立って、常に道行く人を観察しては、目があうとニッコリほほえんでくれるんです。ほら、インドカレー屋のインド人店主と同じパターンね。これ、逆にふらりと入りづらい! ちょっと店内の雰囲気を見て「やっぱり今日はいいかぁ~」なんて帰るってことができなそう。とはいえ自分もいい大人ですし、駄菓子欲はそんなに強いほうじゃありません。
そんなふうに、気になるな~気になるな~と思いながらも日々が過ぎてゆく中、突然思い立ちました。

 

「『駄菓子飲み』をすればいいんだ!」と。

 

普段から頻繁に買うものではない駄菓子が、「飲み」の2文字をつけただけで突如輝き出して見えるのは、もはや病気。酒の変態。自覚はありますが治療のしようもないので、さっそく実行に移すことにします。

 

酒、つまみ、トータルで500円以内とする

 

せっかくなのでルールも決めておきましょう。
「酒、つまみ、トータルで500円以内とする」。
このルールを思いついた途端、先ほど輝きだした駄菓子の存在感は、自分の中でもはや強烈な発光体へと変化しました。あぁ楽しい。

 

はやる気持ちをおさえ、まずはコンビニにお酒を買いに行きます。道中、とある作戦を思いつき、買ったのは「宝焼酎20度」の220ml入りプラカップ(159円)と、「ウィルキンソン炭酸水」(103円)。しめて262円。
使える残額は238円。これだけあればかなり潤沢な駄菓子飲みが楽しめることは想像に難くない。500円という値段を設定した自分、天才じゃないかしら? なんてことを考えながら、いよいよ駄菓子屋の前にたどり着きました。

 

やはり店主さんは入り口に仁王立ちしています。が、今日は絶対に買い物をすると決めているのだから、ひるむことはない。「こんにちは。おやつを買いに来ました」と、大きめの声ではっきりと伝えると、無事店内へ迎え入れてもらうことに成功。店主さんはすぐ僕に、青いザルをひとつ渡してくれました。いわゆる、買い物かご代わりです。
目の前にはうず高く積まれた駄菓子の山。価格はどれも数十円程度。238円もあれば大豪遊できます。慎重に計算しつつ、好きな駄菓子、初めて見る駄菓子、気になるものをザルに取っていっていると、店主さんが「こんなのも美味しいよ」と「チーズスナック」をおすすめしてくれたりして、そうか、この方にとって、お店で駄菓子を買う人間は、等しく輝かしい未来に溢れた子供たちなのかもしれない。なんて思ったり。

 

フルーツの森サワーで乾杯!

 

自宅に戻り、いよいよ待望の駄菓子飲みを始めましょう。買ったものは以下。

 

・うまい棒 めんたい味
・うまい棒 ちまき味
・ポテトフライ フライドチキン味
・蒲焼さん太郎
・焼肉さん太郎
・やきそば屋さん太郎
・甘いか太郎
・ソースせんべい
・フルーツの森

 

太郎率高し。しめて235円。酒代との合計、497円。我ながら天才的だ。

 

ただひとつ、先ほどお酒を買う際に「ある作戦を思いついた」と言いましたが、これに関しては完全にミスりました。というのも、よく駄菓子屋に、水に溶かすタイプの粉末ジュースって売ってるじゃないですか? あれを買って、焼酎と炭酸水で割り、オリジナルサワーにして飲んでやろうとたくらんでいたんですよ。ところが、お店になかった。そこで作戦を変更し、「フルーツの森」ってのを買ってみました。「ソーダ餅」ってわかりますかね? 表面は粉っぽく乾燥していて、噛みしめるとちょっとニチャっとするような、なんとも形容の難しい駄菓子。甘い。それに似た、色とりどりのフルーツ味のもので、ピンク色のモナカの皮のような受け皿に入っています。……なんて難しいんだ、駄菓子を言葉で説明するの。要するにそれを焼酎のプラカップに沈め、「焼酎のフルーツの森漬け」を作って、炭酸水で割って飲んでやろうというわけです。
フルーツの森は焼酎に入れた瞬間から気泡を発しながら溶け始め、黄色、ピンク、緑、パステルカラーのつぶたちがキラキラと輝いて、そのまま部屋に飾っておきたいようなかわいらしさ。このファンシー感、酒界のファンシー巨匠「バイスサワー」の地位を脅かしかねない大発見かもしれないぞ。実際に飲んでみると、薄ぼんやりとほの甘く、かぐわしいフルーツの香りが鼻腔をくすぐるようなくすぐらないような気がしないでもなく、なかなか美味しいです。

 

お腹いっぱい、胸いっぱい

 

さて、おつまみを開けていきましょう。まずは気になっていた、「うまい棒 ちまき味」。初めて見る味です。サクりとかじると、そもそもちまきってどういう味だったっけ? という疑問が頭をよぎるも、味が濃くてうまい。うまい棒、本当にうまい棒だよな。フルーツの森サワーにもよく合います。

 

これまであまり自分から選んだ記憶がないのですが、酒のつまみ力が高そうなので買った「焼肉さん太郎」。開けてみると、けっこうパリパリなものなんですね、これ。かなり謎感の強い食べ物ではありますが、パンチのある味は酒に合います。
裏面の説明に「私、焼肉さん太郎はおさかなのすり身にイカ味を混ぜ合わせて、板状にのばしたものを食べやすいようにカットしてオーブンで焼き上げました」とあり、最初に主語である「私」が入ることによって、自分で自分を焼き上げたことになってしまっている点や、「イカ味」を混ぜ合わせるってどういう工程だよ! あと、そもそも原料魚なのかよ! など、気になる点が多々あり、そのちょっと抜けたところが駄菓子ならではという感じで楽しいです。あぁ酒が進む。

 

ちょっと味が違うだけだった「蒲焼さん太郎」を経て、「やきそば屋さん太郎」。これはいわゆるベビースター風のスナック麺で、元気に遊ぶ豚くんのキャラクターの横に「味」と書いてあり、しばらく考えてしまったんですが、「ポーク味」という意味だと理解。斬新な表現ですね。実際、最初はソース味が主張してくるんですが、徐々にラードっぽい風味が口に広がり、意外にもちゃんとポーク味。美味しいです。

 

「甘いか太郎」も魚のすり身をシート状にした菓子で、やわらかく、かなりしっとりとしたタレ感があり、しかもキムチ味。今までで一番おつまみ度が高いかもしれない。徐々に甘みと香りが増してきた2杯目のフルーツの森サワーとよく合います。

 

大好きな「ポテトフライ」は、なんと説明していいものか、一般的なポテトチップスともちょっと違う、ジャガイモ原料のチップス状菓子。脂っこくて味が濃く、圧巻の美味しさで、久しく存在を忘れていたけど、これはまたちょくちょく買うことにしよう。

 

残るは「うまい棒 めんたい味」と、これまた好物の「ソースせんべい」なのですが、さすがにこれだけ続けて駄菓子を食べると、お腹いっぱい、胸もいっぱい。その美味しさへの信頼度は駄菓子界随一ともいえる、めんたい味のうまい棒をつまみに残ったサワーを飲み干し、ソースせんべいはまたこんど、ということにして、楽しい楽しい駄菓子飲みは無事終了したのでした。

 

溶け残って焼酎漬けとなったフルーツの森は、付いてきたモナカ風の受け皿に戻して食べてみたんですが、大人のデザートという感じでなかなかいけましたよ。

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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