人気のロケ弁で飲む
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

bw_manami

2019/05/31

 

昔から名前だけは知っていたのり弁

 

TV番組で芸能人が「楽屋に置いてあったら嬉しいロケ弁」というテーマでトークしているのを見ることがあります。そんなときに必ず名前が出るのが「津多屋」の、のり弁。

子供の頃からその店名だけはなんとなく頭に残っていたものの、ずっと「のり弁がそんなに美味しいのぉ?」くらいの感覚でおり、特にそれ以上の興味を惹かれるということはありませんでした。ところが何年か前、その実店舗が自宅からそう遠くない上石神井駅近くにあることを知り、少し状況が変わりました。「そんなに人気のお弁当が近所で買えるなら、一度くらい食べてみようかな」という気になってきた。

これまでの人生の中で「のり弁」にきちんと向き合ったことはないけれど、30代もなかばを超えたあたりから、さすがに食の好みも鄙びてきております。もしかしたら、超美味しいんじゃないか。そんな機運が最高潮に高まり、実際に食べてみたのが3年ほど前。これがまぁなんというか……超美味しかったんですよね。

 

 

「今日、津多屋ののり弁、食いてぇな」

 

よく晴れた5月のある日、朝起きて、行楽日和としか言いようのない気候を肌で感じた瞬間、こう思いました。「今日、津多屋ののり弁、食いてぇな」。

思ってしまった以上どうしようもありません。身支度をし、自転車にまたがり、11時の開店時間に合わせ、上石神井へと向かいます。商品がなくなり次第店じまいしてしまう人気店ですが、午前中に行って買えなかったということはありません。選んだのはもちろんのり弁。正式名称「のり2段幕の内弁当」1,050円也。さらにこの日はなんだか贅沢をしたい気分だったので、初めてのサイドメニューにも手を出してしまいましょう。お弁当の他に約20種類ほどの単品惣菜が売られていてどれも魅力的なのですが、その中から「メンチカツ」をチョイス。

年々、特別に美味しいものをお酒なしで食べることに対する侘しさ、憤りが増しています。不可抗力ということで、350mlの発泡酒と500mlの「タカラ焼酎ハイボール レモン」を購入し、いそいそと自宅へ。

せっかくなのでベランダに椅子とテーブルをセッティングし、優雅なのり弁ランチ飲み、スタート!

 

 

メンチカツにビールをもっていかれる

 

まずはメンチカツからいってみることにしましょう。包み紙から本体を半分ほど引き出し、直接ガブリ。まだじゅうぶんに暖かく、ふわりとしたラードの香りの下から、みっしりと充実感のあるひき肉の旨味が立ちのぼります。

あわててビールを喉に流しこみますが、ちょっと度を越した相性ゆえ、思わず缶の半分くらいいってしまいましたよ。やりすぎた。

 

続いて、のり弁の主役といえるかもしれない海苔の端っこだけを箸でつまんで、じっくり味わってみることにします。ピリ……モクモクモクモク……あ、これは違うわ、普段食べている海苔とは。厚みも違えば噛みごたえも違う。何より香りが段違い。かなり濃いめの醤油味が染み込ませてあるんですが、それでも脆弱な食感になる様子などなく、しっかりと存在感をたもっています。この力強いうまさか。芸能人たちに人気の理由は。

そのままこんどは、ご飯も一緒に食べてみます。おかか醤油味の染み込んだご飯と、2段の海苔をまとめて口の中へ。お米自体も美味しく、ものすご~く上等なおにぎりを食べているよう。やっぱ最高だな……津多屋ののり弁。

 

次、ちょっと気分を変えたく、まさかのカボチャサラダに箸を伸ばします。濃い味で、ベーコンが効いているのかな、そしてなんとカレー風味だ。うまい、うますぎる。思わずグイッグイッと2口いったら、あっという間にビールがなくなってしまいました。

 

いったん落ち着かなければ。素性のよくわからない、真っ白な練り物を食べてみます。このシャキシャキ感はレンコンか。とても丁寧な味。そして良かった。これはビールじゃない。チューハイだ。缶チューハイをプシュッと開け、爽やかなレモン風味と清楚な練り物のマッチングを楽しみます。

先ほどの「ファースト・海苔・インパクト」の興奮が少し和らいできました。こんにゃくの煮物~桜色の大根漬けという、しみじみゾーンを食べ進めます。チューハイもチビチビ。あぁ、しみじみゾーン、しみじみうまいなぁ……。

 

 

やるときはやる男

 

それにしても、あらためてそれぞれが切磋琢磨しあう、「理想のクラス」とでも表現したいような、バランスのいいお弁当だなぁ。エビフライはさしずめ学級委員か……なんて眺めていたら、大変なことに気がつきましたよ。当たり前っちゃあ当たり前なんですが、横に小さなソースが添えられているじゃないですか! あわてて半分をエビフライ全体にかけ、半分を残っていたメンチカツに染み込ませます。メンチをおもむろにガブリ! 素のままでももちろんうまかったんですが、これはさらに凶悪。突然ご飯の存在を思い出して追いかける。よ~く噛み締めて味わい、チューハイゴクゴク。風が気持ちいい。

 

ノってきました。この勢いはもう誰にも止められないでしょう。オレ、いくよ、焼き鮭。そこからの米。うまいうまい。日本に生まれて良かった。チューハイぐびり。間髪入れずエビフライ半分。米。チューハイぐびり。もはや暴走機関車です。

このあたりでとっくにお値段以上の満足感で満たされています。が、ご飯もおかずもまだまだ残っている。頼もしすぎるだろうよ……。

 

豚の角煮。1枚持ち上げると、下にもう1枚入ってる! 思わず声が出ましたよね。甘辛いタレと濃厚な豚の旨味、最高。ここはあえて、米じゃなくダイレクトにチューハイへ。

自分、やるときはとことんやる男です。ここで存在感抜群の、豚肉のごぼう巻きをたたみかけることにしました。これがまた、開いた口がふさがらないほどの絶品。これまた甘め濃いめの味付けなので、ダイレクトチューハイ。

 

もはや、お腹いっぱい胸いっぱい。それでも弁当箱を眺めれば、まだまだ凶悪なまでにつまみ力の高い布陣が出番を待っている。なんだかおそろしくなってきました。そうだ、煮卵に癒されよう……。これが正解でしたね。一体どの日なんだかわかりませんが、あの日を思い出す懐かしい味。

 

現状、重量級のおかずちょこちょこの他に、素朴な見た目の里芋煮とがんもどきが残っています。ここからラストまでは、この2種のおかずでリズムを作りつつ、間に他を挟み込んでテンポよく進めていく作戦としましょう。

 

 

フルコースの満足感

 

エビフライ、チューハイ、エビフライのしっぽ、チューハイ。かつて「しっぽが一番海老の味がする!」という名言を残したのは漫画家のスケラッコ先生だったでしょうか。今、心から納得できます。

 

なんとまだメンチカツも残っていて、なんとまだ温かい。基本的に冷たいお弁当という世界において、これはかなりの贅沢だということに今さら気づきます。メンチ、ご飯、ゴクゴクとチューハイ。

 

里芋。ねっとりと甘く、ダシの風味豊かでおそれいる。あぁ、酒が残り少ないぞ。残念だけどちびちびモードに移行しましょう。

 

鮭、ご飯、チューハイちびちび。

ごぼう巻き、ご飯、チューハイちびちび。

角煮、ご飯、チューハイちびちび。

ここでご飯がつきました。

カボチャサラダ、チューハイちびちび。

煮卵、チューハイちびちび。

ここで酒がつきました。

 

大好物ながらなぜか手をつけていなかったがんもどきを最後に一口で食べると、甘く、大豆味濃厚で、まるでデザート。そうか、自分の酒飲みとしての直感がそのことを感じとっていたから、無意識に食べないでおいたのかもしれないな。

 

 

今日も美味しかった。ごちそうさまでした。それにしてもなんなんだろう、このフルコース料理を食べたかのような満足感は。

津多屋さん、いつも美味しいお弁当、本当にありがとうございます……。

 

あ、最後にひとつだけ断っておきたいんですが、僕、決して津多屋の回し者ではなく、勝手に好きで自腹で楽しんでるだけですので!

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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