ギルティーチャーハン
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

 

人の好きなものが気になる

 

前回のオリジナルな牛丼の食べかたもそうですが、最近、人の好きなものがすごく気になるんですよね。
誰しもが最低ひとつやふたつ、ものすごく思い入れのある飲食店や食べ物を心に秘めていると思うんです。その人だけの秘密の楽しみ。特別な日にだけ自分にあげるご褒美。清野とおるさんの大ヒット漫画『その「おこだわり」、俺にもくれよ!!』などはまさにそういうテーマに特化した作品であり、さすが清野さんとしか言いようがないのですが、そこまで尋常ならざるこだわりとまでいかなくても、誰かが「妙にここが好きでさ~」っていうお店で飲んでみたい。最近、そんな欲望が高まっています。

 

知人に、とある酒造メーカーに勤める若い男性がいます。ものすごく人当たりが良く、常に低姿勢。それでいて、ご自身のメーカーが出展するイベントなどでは、率先して誰よりもいっぱい酒を飲んでいたりする、根っからの酒好き。そんな、完全に信頼できる男です。
先日、その彼を含む数人でお酒を飲む機会がありました。場所は、参加者一同のアクセスがそれなりに良く、いい酒場がたくさんある街、板橋。まずは2軒の大衆酒場をハシゴし、みんなそれぞれいい~気持ちになって、さて、どこかもう一軒くらい寄って帰りましょうか、ということになった。そうして街をふらふらと歩いていると、彼が「ここ、僕大好きなんですよ!」と指さしたのが「龍王」という、何やらすごい名前の中華屋さん。雰囲気は、威圧感のあるネーミングに反し、街の小さな繁盛店という感じで、ちょっと飲むのにも良さそうです。よし、ここにしましょう! と入ってみることに。

 

 

ヘタな肉よりこのレタス

 

そこで出会った感動の一品、「ギルティーチャーハン」。
いや、実際にそういう名前で出されているわけではなく、メニュー名でいえば普通に「レタス炒飯」なんですが、ここによく通っているという彼と奥様の間で、そう呼んでいるとのこと。その日は全員、もうお腹的には満足していたのですが、そんなエピソードを聞いてしまったからには頼まないわけにはいかない。「よし、今日のシメはチャーハン飲みだ!」ということになりました。
そもそも町中華の世界には「しっとりチャーハン」という概念が存在します。これは、近年主流の「パラパラ至上主義」とは対極にある、ふっくらと炊いた米をラードで炒め、米の旨みをギュッと閉じこめた、甘くてしっとりとした昔ながらのチャーハンのこと。ご興味のある方は、刈部山本さんの書かれた『東京「裏町メシ屋」探訪記』などに詳しいのでご一読あれ。とにかく、このしっとりチャーハンの名店が多く、聖地とまで呼ばれているのが東京都板橋区。そんな地にあって、僕が出会った中ではもっともオイリー。しっとりを超え、もはや「べったりチャーハン」とでも呼びたいと思わされたのが、龍王のチャーハンだったのです。
650円というお手頃さながら圧倒的なボリューム。オーソドックスな見た目のチャーハンの上ですさまじい存在感を発しているのは、見るからにオイリーに炒められた大量のレタス。チャーハンとレタスを同時に口へと運ぶと、まずはパンチの効いたチャーハンの味わいがガツンときて、続き、レタスのジューシーさで口の中が洪水状態。やがて具材や米の甘みが広がりだし、じゅうぶんに堪能したところでレモンサワーをごくりとやると、美味しかったという余韻だけを残して口の中が爽やかに洗い流され、何度でも繰り返したくなる中毒性があります。そこにいた全員で、「ヘタな肉よりこのレタスだよね」などと言いあうほどに、こいつは確かにギルティー、犯罪的な悦楽だぜ……。

 

 

ナスがバターで飽和状態

 

後日、僕はあらためて龍王を訪れました。理由は、ハシゴ酒の3軒目ではなく、もう一度きちんとお店と向き合ってみたかったから。そして、もうひとつ、どうしても気になるチャーハンを見つけてしまったから。
龍王の営業時間は、11時から15時。中休みがあって、17時から24時半。「ウーロンハイ」や「レモンハイ」といった焼酎の割りもの系が半額の180円になる「ハッピーアワー」があるのですが、おそろしいのはその時間設定。なんと、17時から23時! こんなにハッピーに満ち溢れた店、僕は他に知りませんよ。というわけで、もちろんハッピーアワーにおじゃまします。ちょうど夕飯時とあり、家族連れからお年寄りまで、幅広い年齢層のお客たちで店内は大混雑。それでもなんとか空席を見つけ、すべりこむことができました。

 

まずはレモンハイ、それから、単品料理の中から「ナス揚げ」(350円)を注文。実は、さっきどうしても気になると言ったチャーハンが「ナスバター炒飯」(700円)なる一品なんですよね。つまり今日の裏テーマ、「ナス飲み」というわけ。

 

レモンハイがやってきました。何気なく一口飲むと、うわ、濃い! こないだは酔っ払っててスルーしちゃったけど、ここの酒、こんなに濃いんだぁ(ニンマリ)。しばらくするとナス揚げも到着。これがまぁ、超~うまい! フライドポテトのように細切りにしたナスに衣をまぶしてカリカリに揚げてあるんですが、衣の中のナスがトロォ~っと、もはや液状。で、甘い。衣の外側は、しょっぱい。化調もバリバリ。どこまでもギルティーなお店だな~。
ウーロンハイをおかわりするタイミングで、満を持してのナスバター炒飯注文。すぐにやってきたそれは、前回食べたレタス炒飯とはまるで違う見た目をしています。まず、玉子が使われていない。白っぽいままのご飯の中に、角切りのナス、チャーシュー、ハム、ピーマン、赤パプリカがゴロゴロと埋まり、陳腐な言い回しでお恥ずかしいですが、まるで宝石箱。心の宝物にしたい度マックスな存在感です。
なるべくいろんな具が乗るようにスプーンをさしこみ、ぱくりと一口。ピーマンと油の良い香りがふわっと広がります。米の一粒一粒に塩コショウの味がコーティングされ、2種類の肉の味や食感の違いも贅沢。パプリカの爽やかな甘さは、まるでフルーツのよう。
そしてナス! これが、もはや「ジューシー爆弾」。ナスをトロリと噛みしめた瞬間、爆発的に広がる甘いバターの香り。かなりたっぷりと使われていると思われるバターで、ナスが飽和状態のようです。

 

夢中で食べましたね、この、他のどこにもない絶品チャーハンを。これがまた、最高にお酒に合うんだ。チャーハン界の天才酒泥棒。まさに、ギルティー・オブ・ギルティーチャーハン。まいりました。

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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