ハシゴ酒天国「新橋駅前ビル」【前編】
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

闇市の面影を残す奇跡のビル

 

 

新橋といえばサラリーマンの街。西口の通称「SL広場」で、赤ら顔のサラリーマンたちがTV番組のアンケートに答えている、なんてシーンはおなじみですよね。もちろん良い酒場もたくさんあり、僕も大好きな街です。

 

そんな新橋にあって、僕がもっとも好きなスポットが、SL広場とは反対側、東口駅前にどーんとそびえ立つ、「新橋駅前ビル」1号館&2号館。1966年竣工のレトロな商業ビルで、中には無数の飲食店、酒場がひしめき合い、このビルだけで幅広いパターンのハシゴ酒が楽しめてしまうんです。近年の僕は、新橋で飲む=新橋駅前ビルで飲むになってしまっているほど。今回は、その中でも特に大好きなお店について、思いを綴らせてもらえたらと思います。

 

 

現在新橋駅前ビルの建っている場所には、戦後、都内最大規模の闇市が存在していたそう。1964年の東京オリンピック後、市街地改造事業が行われ、そこにあった「狸小路」という飲屋街のお店を詰め込んで建てられたのがこのビル。古い大衆酒場の味わいが何よりの好物な僕にとって、実際には味わったことのない闇市の雰囲気は、一言で言って、憧れ。その面影をビルの中にいながら感じさせてくれるのが、本当に嬉しいしワクワクするんですよね。

 

銀座線や都営浅草線、JR各線の改札から地下道で直結しており、その地下道を挟んで1号館と2号館の入り口があります。つまり駅直結、秒速で乾杯ができてしまうというわけ。

 

まずは1号館の地下から探索していきましょう。

 

 

 

入口の両サイドにいきなり立ち飲み屋が

 

 

駅から地下一階へと続く入り口の両サイドにいきなりある立ち飲み屋が、「立呑処へそ新橋駅前店」と「立ち呑み 吟」。

 

 

へそは新橋に数店舗を展開する人気のグループで、肉料理や串揚げなどが名物。なんでも安くて美味しく、サラリーマンのオアシスとはまさにここのこと! といいたくなる名店です。

 

おでん3種盛りと好きなドリンク1杯で550円をはじめ、数種用意された「(得)セット」が、その名の通りお得。特に僕が好きなのは「鉄板和牛ステーキセット」(980円)で、鉄板の上にモヤシ、ちょうど良いサイズのステーキ、たっぷりのフライドガーリックが乗ったがっつり系のセット。この肉が、本気で上質。うっとりものの、とろける美味しさなんですよね~。外せないのが通称「100ナポ」呼ばれる「ナポリタン」。おつまみ向けの濃い味ナポリタンが適量小皿に乗って、なんと100円というんだからそのサービス精神に涙が出ます。

 

 

吟は、表記のないものはすべて300円均一の小皿料理がカウンターにずらりと並ぶ、どちらかといえば日本酒に強い立ち飲み屋。煮物や和え物など、ほっとする味わいのおつまみが中心で、ここで全体がまっ茶色になるまで煮込まれた「イカと里芋の煮つけ」なんかをつまみに、1杯300円程度から揃う地酒をくいっと傾ければ、日頃の疲れなんて空中に溶けていってしまいます。

 

 

その先「酒々」は、本格的な和食が楽しめる、カウンターだけの小料理屋。ここで以前出会った、マグロの希少部位「のうてん」(1,500円)。赤身と刺しのバランスが神々しいまでの分厚い切り身がお皿にたっぷりで、口に入れた瞬間、ぶわっと上質な脂の香りが広がり、それでいて赤身のようなうま味もしっかりと感じられ、まさに脳天がしびれるうまさでした。

 

前の2店と比べれば多少値段は張りますが、本当に美味しいものをじっくりと堪能できて、たまの自分へのご褒美に寄りたいお店。この幅広さも、新橋駅前ビルの魅力なんですよね。

 

 

打って変わって、なんでも揃う正統派大衆酒場「呑み処 圭」。肉料理に魚料理、揚げ物、名物のひとつ「まぐろユッケ」に豊富なランチ、そして豊富なご飯もの。とりあえずここへ来れば、参加者全員が満足すること間違いなしのオールマイティー酒場といえましょう。

 

家庭でも食べられるけれども、それをプロが丁寧に作った「チキンラーメン 卵のせ」(400円)。麺とスープをふわりと覆う半熟卵と、小ネギのアクセント。食べ過ぎだとは思いつつ、ついついシメに頼んでしまう人も多いであろう、禁断の味わいです。

 

 

 

幅広い世代に対応する新店も

 

 

ビル内は、両サイドにずらりと酒場が並ぶメイン通りから、さらに小路がたくさん広がり、まるで迷宮。映画のセットさながらの古いラーメン屋やカウンター酒場が軒を連ねる風景の中を歩いていると、本気で昭和の時代にタイムスリップした気分になってきます。が、新陳代謝がまったくないわけではなく、近隣のサラリーマンやOL、さら近年は、わざわざこの雰囲気を味わうために遠方から訪れる人々なども多く、比較的若い層のお客さんでも違和感なく入れる小粋な新店もちらほらとあります。

 

 

僕も大好きな「ビーフキッチンスタンド」はその代表でしょうか。ここ、驚異のリーズナブルさとクオリティの高さで、近年どんどん店舗数を増やしている勢いのあるお店。

 

なんたって、目玉メニューである「名物ビフテキ」「牛ハツのレアロースト」が、どちらも290円ですよ? ちょっと信じられないでしょう。もちろんサイズは小さめなんですが、だからこそあれこれ楽しめて酒飲みにはありがたい。そして、安かろう悪かろうではなく、何を頼んでもちゃ~んとうまい! 「ポテトサラダ」や「マカロニサラダ」は110円。「生ハムサラミ盛り」や各種「アヒージョ」は199円。アルコール類は1杯290円からで、「ホッピーセット」が350円。ナカが210円。いやいや、永遠にいちゃうでしょう、これは……。

 

 

え~と、本当はこのあと、1号館の1階と2階、さらに2号館についても書きたかったんですが、思いがあふれすぎて1号館の地下だけで文字数がいっぱいになってしまいました。というわけで、続きは後編にて。

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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