キッチン焼肉
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

 

キッチンドリンキングこそ至高の晩酌

 

僕は料理が好きなほうなので、朝昼晩問わず、家族の食事を作ることがよくあります。もちろん妻が作ってくれることは多々あるし、特に分担のようなものがなく、「あ、なんか今日はあれが食べたいから、おれ作っていい?」というような感じ。割と珍しいシステムといえるかもしれません。

 

で、家で晩酌をしていてもっとも楽しいのは、実は「料理をしながらキッチンで飲む」瞬間かもしれません。いわゆる「キッチンドリンカー」というやつですね。その言葉に、アル中っぽくてあまり良い印象をお持ちじゃない方も多いかと思いますが、同じくらい「わかるわかる!」というご意見が今、僕の脳内に直接届いています。同志のみなさま、めげずに台所で飲んでいきましょう。

 

では、キッチンドリンキングに一番向いている料理は何か? 個人的な意見ですが、だんぜん「焼肉」だと思います。
我が家は子供がまだ小さいので、テーブルに鉄板を置いて、そこで思い思いの肉をジュージューやいて食べる、というスタイルはちょっと危ない。そこでここ最近は、僕がキッチンで肉を焼き、それをカウンターに置いた大皿に順次サーブしていく、という方式をとっています。となると、第一弾が焼きあがったらわざわざ席に戻って食べ、またキッチンに戻っては肉を焼く、なんてのは究極に効率が悪い。おのずと、焼きあがった自分のぶんの肉は、その場で立ったまま食べることになる。焼きたてなのでそりゃあうまい。間髪いれずに酒を飲む。というような流れになるわけですが、これってもう、大衆立ち食いホルモン屋そのものですよね。楽しくないわけがないんです。

 

家焼肉スタイルの変遷

 

ここで、我が家のここ数年の焼き肉スタイルの変遷を見ていってみましょう。

 

古くはホットプレートを使っていました。そして、長らくそれで満足していた。しかし先述のように、子供が生まれ、キッチンで焼く必要性が生じてくると、うちにあるホットプレートはでかすぎる。

 

そこで何気なく、百均で売っている「焼き網」を導入してみることにしました。鉄製で、ところどころスリットの入った丸い受け皿に取っ手が付き、スポッと金網がセットできるようになっているもの。用途には、ガスコンロでお餅などを焼くのに便利とあったけど、自己責任で肉を焼いたって問題なかろうと。するとこれがめちゃくちゃ良かった! 熱源との距離と、網なので肉の余分な脂が落ちるのが良いのでしょう。どんな肉でも表面はカリッと、中はジューシーに焼きあがる。それまで「肉にとって余分な脂なんてない!」と固く信じる脂信者だった僕にとって、まさしく革命でしたね。「これ、もしかして百均で売っている中で一番良いものなのでは?」くらいの勢いで使い倒し、最終的には、老舗酒場で何十年も使い込まれた調理器具みたいな存在感を醸し出していました。
ところが1年前に引っ越しをしたところ、ガスコンロの性能が前より良くなったのが原因のようなんですが、これで肉を焼いているとすぐに「ピピッ」と音がして火が止まってしまうようになった。コンロ周りの温度が上がりすぎと判断されたのでしょう。ぜんぜん肉が焼けません。

 

打開策として導入したのが、以前から家にはあった、カセットコンロの名門、イワタニの「炉ばた大将 炙家 W」。これ、カセットボンベをセットして着火すれば一瞬にして網焼きが始められるすぐれもので、しかも食材を直火で炙るのではなく、輻射板を挟むことによってムラなく絶妙に焼きあげることができる。ただし、網から落ちた肉の脂が熱された輻射板に直接落ちるので、煙もすさまじい。一応キッチンの換気扇を全開にし、その下でやっているんですが、それにしても焼いてるときの煙たさは避けられない。「これはやっぱり外で使いたいものだよなぁ」なんて感じつつも、しばらくはその方法がベストだと信じて使い続けていました。

 

「やきまる」襲来

 

そんなある日、同じくイワタニの「スモークレス焼肉グリル やきまる」の存在を知りました。これまたカセットボンベ式の、焼肉用ロースター。噂によれば、本気でぜんぜん煙が出ないんだそうです。それでいて、家庭でお店気分で焼肉ができて、焼きあがりも美味しいんだとか。
その存在を知った日から、こいつが欲しくて欲しくてしょうがなくなりました。やきまるという王子様像が脳内でどんどん美化され、もはや恋に恋する乙女状態。近所のスーパーの2階の調理器具コーナーで4900円。買えなくはない値段。しかしながら、家には炉ばた大将もあるし、どんなタイミングで買えばいいのかがわからない。そんなふうに過ごしていたある日、妻から、福音ともいうべき言葉が僕にかけられたのです。

 

「誕生日プレゼント何がいい?」

 

そうか! 普段年齢というものにまったく無頓着な生活を送っているのですっかり忘れていたけれど、7月22日は自分の誕生日だ。我が家ではいまだに、そんなに大げさなものではなくとも、家族の誕生日には記念品などを用意してお祝いをするようにしています。無論、ノータイムで答えましたよね。

 

「やきまる!」

 

「本当にそれでいいの?」と何度も確認されつつ、無事我が家にやきまる様をお招きすることができたのがつい先日。それ以来、当然のことながら焼肉頻度爆上がりですよ。

 

中央が若干盛り上がった円形のプレートの周囲にはスリットが入り、そこから肉の余分な脂が受け皿へ落ちる。受け皿には水が張ってあるので、徹底的に煙が出ない。直火で熱された「フッ素加工アルミトッププレート」は、表面温度が210~250度に一定化されており、肉を乗せた瞬間にジューッと小気味良い音をあげる。しばらくしてひっくり返すと、絶妙な焼き目がついてますよ。両面焼けたらそのままタレをつけ、一口でほおばる! 缶チューハイグビグビググビー! はは、最高! というわけなんですよね。

 

あ、肝心の焼く肉に関してですが、そこは僕、別になんでもいいんです。和牛がいいとか、カルビがないと始まらないとか、そんなこだわりはありません。牛タンが半額にでもなってたら食べたいけど、日常的に食べるなら豚タンでいい。安い豚バラの薄切り肉がメインでもいいし、こてっちゃんでもいい。
ただたまに、「よし、今日は気合を入れて焼くぞ!」なんて気分の日には、上石神井の焼肉食材専門店「スタミナキング」まででかけていって、「ハラミ」「ミックス」「上ミノ」あたりを100グラムくらいずつ、買ってきたりしますけどね。
あぁ、今夜は完全に焼肉だなこりゃ。

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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