創作おつまみの喜び
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

晩酌クッキングは楽しい

 

言わずもがな、僕は自宅での晩酌が大好きで、その際のおつまみを自分で作ることに異常な喜びを感じてしまう質です。以前仕事で対談させてもらったラズウェル細木先生は、「晩酌クッキングにはクリエイティブな喜びがある」とおっしゃられていました。うまくいけば嬉しい。失敗してもそれはそれで楽しい。ひらめいたアイデアを試してみてそれがバシッとはまったときなど、自分は天才じゃなかろうか? と思う。そうなってくるといよいよもって酒がうまい。僕はお酒や食べることが大好き。かつ、ものづくりも大好き。だから、ラズウェル先生のこのお話を聞いた時は目からウロコでした。自分がなぜこんなにも、料理を作りながら飲むことが好きなのかの理由を、ズバッと言い当てられたようで。

 

ライターの仕事を始めた頃は、良い酒場やインパクトのある酒場をレポートする、という内容の仕事がほとんどだったのですが、いつの頃からか、ありがたいことに、レシピに関する仕事をさせてもらう機会も増えました。そうなってくると、ただでさえ好きなのが、四六時中考えているようになる。外でお酒を飲んでいても、何かヒントになるような料理に出会うと、とっとと帰って家で再現してみたくてたまらなくなる。ここまでくるとちょっと病的ですが、一度ハマると抜け出せない楽しさがあるのが晩酌クッキング、特に「創作おつまみ」の世界なんですよね。

 

僕がこれまでに考えてきたレシピには、数通りの誕生パターンがあります。例えばこんな感じ。

 

誕生パターンあれこれ

 

(1)居酒屋からのインスパイア

 

まずは先ほども話に出た「居酒屋インスパイア系」。日々いろんなお店で飲んでいると、「聞いたことのないメニューだな」「へぇ、それとそれを組み合わせるんだ」「想像とぜんぜん違うものが出てきた!」なんて一品に出会うことがよくあります。そうなってくるともう、家でも作ってみずにはおれない。とはいえ、お店の方に詳しくレシピを聞くなんてことは、そうそうできるものではありません。なので、「たぶんこんな感じだろう」と想像しながら作ってみる。この過程が楽しい。うまくいったらもっと楽しい。

 

「鶏の酒蒸し」もそんな料理のひとつ。酒蒸しといえば普通はアサリでしょう? ところが、とある居酒屋でこういう名前のメニューを発見し、頼んでみたところ、驚くほどにうまい。女将さんに「どこかのブランド鶏ですか?」と聞くと「ううん、普通に近くのスーパーで買ってきた鶏よ」ときた。となるとこのすさまじい旨味、酒蒸し法によって高められたものというわけか。
さっそく家で試してみました。鶏もも肉に軽く塩をし、小さめのフライパンに入れる。そこに、肉の6ぶんめくらいまでが浸る量の日本酒を注ぐ。水気がなくなるまで中火にかける。食べる。うまい! なんと一発でものすご~くうまくいってしまったんですね。味付けは塩だけなのに、酒の旨味が鶏のポテンシャルを引き出し、ものすごく上等な料理になっている。それ以来しばらく、なんでもかんでも酒蒸しにしては食べていたほどです。

 

(2)偶然生まれる

 

家でたこ焼きをしていて、おおかた満足したあと、しかし何か口さみしく、空いた穴でソーセージやチーズなんかをコロコロと焼いてつまみにし始めること、ありません? そんな流れで、2センチ角くらいに切った木綿豆腐を焼いてみたんです。すると想像もしていなかった変化が! コロコロコロコロと豆腐を転がすほどに、鉄板の丸みにそって角が取れてゆき、外側にはカリッと香ばしそうな焦げ目がつき、数分でまん丸、見た目はたこ焼きそのものの物体ができあがったんです。そこで、ソース、マヨ、青海苔、カツオ節で食べてみる。すると、確かにあっさりしている。けれども、6~7割くらいはたこ焼き。焼いている途中で中にタコを差し込めば、さらにたこ焼き度は上がる。カロリーぎ低めだからポイポイとつまんでいても罪悪感が少ないし、おつまみにはむしろこっちのほうがいいんじゃないの? というレシピが、偶然に生まれてしまったんですね。これを「たこ焼き風コロコロ豆腐」と名付けました。

 

レシピが天から降ってくる!?

 

(3)手抜きから生まれる

 

ワンタンが大好きです。たまに家でもたっぷりのワンタンスープを作り、ワンタンパーティーを開催するくらい。特にどんなワンタンが好きかというと、とにかく肉々しいやつ! 餃子やシュウマイだとまた違ってくるんですが、ワンタンの具は肉だけでいいと思っているタイプなんです。ある日、家でふとワンタンが食べたくなった。冷蔵庫にひき肉がない。豚のコマ切れ肉ならある。しかたない、ちょっと面倒だけど、フードプロセッサーを使って……。ん、待てよ? そもそもこの肉、ひき肉にする必要ってあるんだろうか? ここはあえて手を抜いて、そのままワンタンの皮に包んでしまったらどうなんだろう!?
そんな思いつきから、豚コマに酒と醤油を適当にもみこみ、適量ずつをそのままワンタンの皮で包み、ワンタンスープを作ってみた。そしたらこれがうまいのなんの! 究極に肉々しくてしっかりとした食感があり、かといって、食べづらかったり、違和感を感じたりはしない。むしろ今までの作りかたより断然うまい!
こういう発見をしてしまったときは大興奮し、酒量も増えてしまいますね。

 

(4)研究から生まれる

 

ある食材をさまざまな食材と組み合わせて食べ比べ、相性のいいものを探る。みたいなパターンの記事を書くこともあります。こないだおもしろかったのが、鶏肉をいろんな「お酢」で炒め比べてみるという企画。そもそもの発端は、ミツカンの「カンタン酢」という商品がそういう使い方を推奨していて、やってみると実際に美味しい。さっぱりと酸味の効いた照り焼きができあがる。じゃあ他のお酢ならどうなの? というものでした。
普通の穀物酢だと、当然ながら酸っぱいだけ。ポン酢は予想通りうまい。みたいな。そんな中、個人的ナンバーワンだったのが、まさかの「すし酢」! すし酢の原材料って、お酢、糖分、塩分、という感じなんですね。なので、鶏肉を炒めてこれを絡めるだけで、シンプルながら奥の深い、めちゃくちゃ美味しい鶏の照り焼きができてしまう。普通に生活してて、すし酢を酢飯以外に使おうとはあんまり思わないですよね。でもね、知ってました? 鶏の照り焼きの味付け、すし酢だけでOKなんですよ。

 

(5)ひねり出す

 

そういうパターンもなくはありません。例えば編集さんから、「何か『クリスマス』にちなんだレシピをお願いできませんか?」なんて指定された場合は、料理の専門家ではないので、ない知恵を主にネタ方面に働かせ、必死で考えます。
そうやって生まれたのが「ホワイトクリスマスおでん」。ハンペンをツリーに見立ててカットし、プチトマトの赤や、青菜の緑でクリスマスカラーにデコレーションするだけ。ぶっちゃけ一発ネタのようなものなので、これまでのものと比べるとちょっと無理やり感がある。苦しい。けれども、そういうリクエストから、使ったことのなかった食材との出会いや、今までになかった発想が生まれたりして、これはこれで意外と楽しいものです。

 

ラズウェル先生が作品の中で紹介するレシピの中には「こんなのどうやって思いつくんだろう!?」という、意外性の高いものも多い。そこで以前、あるレシピの誕生秘話を聞いてみたところ「これはね、急に天から降ってくるように思いついたの」なんておしゃっていたことがありました。レシピが天から降ってくる。まさにアーティスト。残念ながら、僕はまだまだその域には達していませんが、いつか晩酌クッキングの神様がそんなプレゼントを僕にくれることを夢見つつ、今後も創作おつまみ晩酌を楽しんでいこうと思います。

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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