チェーン店礼賛
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

 

チェーン店=いいお店

 

お酒好き、特に、大衆酒場文化に魅了され、その魅力にずぶずぶとハマってしまったような人が、一度はおちいってしまいがちな現象というものがありますね。それは「チェーン店を毛嫌いする」というもの。
お酒の味を知り、楽しさを知り、古き良き大衆酒場文化を知り、世の中にはこういう世界があったんだ! と感動する。もっともっと良い酒場を知りたいと思うようになる。するといわゆる「個人店至上主義」のような考えが芽生えてしまって、それまでさんざんそういうお店で飲んできたくせに、「もうチェーン店には行けないよね~」なんて言いだす。これは危険です。いや別に、行きたくないなら行かなければいい。それがまずいと言っているわけではない。そうではなく、個人経営のお店のほうがチェーン店より上、そんな偏った考えに支配されてしまうことがまずい。
もちろん僕も、渋い大衆酒場の味を覚えたての頃、生意気にもそんなことを口走っていた時期がありました。が、それって単純に、自分で自分の選択肢を狭めてしまっているだけなんですよね。だって考えてもみてください。どんなチェーン店にも、創業者が熱い想いを胸に始めたに違いない、最初の1店舗目がある。その店が多くの人々の心をとらえ、人気店となったから、チェーン展開をするに至った。ということは、あくまでも極論ですよ? 極論、「チェーン店=いいお店」ということになりませんか?

 

安定感と安心感

 

特に若い世代には、お酒は好きだけど、チェーン店でしか飲まないという人も多いと聞きます。僕は個人経営の酒場の素晴らしさにハマりにハマって、今まさにこういう状況にあるような人間なので、それはもったいないなぁと思う。けれどもちろん、それでいいならそれでいいと思う。お酒や食事に求めるものは人それぞれですからね。そして、実際わかるんです。だって、基本的に美味しい。まずいものは出てこない。お店の雰囲気やシステム、頼んだら出てくるものの味やボリュームも想像しやすいから、余計な気を使わなくていい。つまり、安定感と安心感がある。それが、たとえ地方に行ってもチェーン店にしか入らない理由である。という人がいるのもね。

 

例えば、慣れぬ街でなんらかの仕事を終え、疲れきった帰り道。一刻も早くビールで喉を潤したい。普段ならば駅周辺をひととおり徘徊し、渋~い赤ちょうちんでも見つけたらばそこに飛び込みたいところ。けれども今日は、肉体的にも精神的にも、もはやそういう元気がない。ただただ、ありきたりのものをつまみにビールが飲みたいだけなんだ。そんな気分の日というのも確実にあって、そういうときは僕も、チェーン店をガンガンに利用します。
先日も、早急にビールをぐびぐびやりたい気分の日がありました。おつまみは、しょっぱくさえあってくれればそれ以上はこだわらない。駅前を見回すと、松屋グループの経営する中華屋「松軒中華食堂」というお店が目にとまる。入ったことはないけれど、松屋グループという時点でバカ高いということはありえない。面倒なこともなさそうだ。よし、ここでいいや! と初めて入ってみたんですが、これがも~のすごく良かったんですね。
まず、メニューがタッチパネル。驚くほどに通らない声をはりあげ、「すいませ~ん!」と店員さんを呼ばなくてもいい。ドリンクメニューボタンを押す。生中が270円というのも破格ですが、「生ビール  小グラス」(200円)というのがある。ちょうどいい! とそれを注文。軽くつまめるようなものもいろいろあり、メンマとキムチと味玉が1皿に乗った、「おつまみ3点盛り」(180円)というのがある。ちょうどいい! とこれも注文。入店から3分と待たず、それらが目の前に並ぶ。合計380円ですよ? 我々はなんと素晴らしい時代を生きているんでしょうか。小ビールを飲む。ごく、ごく、ごくと、3口ほどで飲み干す。最高の気分。おつまみがまだまだ余っているので、「酎ハイ」(230円)を追加する。すべてを平らげてだいぶ満足。お会計ボタンを押す。個人経営の町中華だったら、こんな飲みかたはできませんよね。最後にラーメンを頼むとか、お腹に余裕がなければ、せめてもう1品くらい軽い料理を頼むとかしないと。チェーン店だからこそこんなわがままが許されるし、店員さんだって気にもしていない。もちろん、食事の人々で混雑する時間とかだったら話は別ですけども。

 

かぶら屋メニューベスト5

 

僕が好きな居酒屋チェーンとして真っ先に思い浮かぶのが、「かぶら屋」ですね。今でこそ何十店舗も展開しているチェーンですが、かぶら屋と出会った約10年前は、池袋に1号店と2号店の2店舗しかなかった。つまり、まだチェーン店未満だった。当時お付き合いしていた女性、つまり現在の妻は、僕が大衆酒場にばっかり行きたがることに寛容で、週末ごとにあちこちのお店につきあってくれたのですが、一緒に一番行ったのはこのかぶら屋じゃないかと思います。もちろん細かいアップデートはあれど、基本メニューは現在と変わらず。その後どんどん店舗が増えることによってクオリティーに変化があったかというとそんなこともなく、どこのかぶら屋で食べても、ちゃんと思い出の1号店、2号店と同じ味なんですよね。

 

では最後に、僕の個人的な「かぶら屋で好きなメニューベスト5」を勝手に発表させてください。
第5位は……「じゃがバター」! 串に刺して揚げたジャガイモを塩とバターで食べる。ホクホクと甘じょっぱくて最高。同じジャガ枠で、おでんのジャガイモとも迷ったのですが、独自性を評価してのランクインとなりました。
第4位は……「レバーの唐揚げ」! 小ぶりでプリプリとしたレバーの唐揚げがお皿にたっぷり。上にはシャキシャキのネギがたっぷり。その上から甘辛いタレがかけ回してあって、熱々をポイポイと口に放り込めばビールが止まりません。
第3位は……「串カツ」! かぶら屋ってなんでも安いんですが、しっかりボリュームのある串カツがなんと1本100円。これは満足度高いですよ。独特の、甘酸っぱくてさらっとしたソースがまたうまいんだよな~。
第2位は……「牛すじ」! これはおでんの具のひとつです。かぶらやのおでんは静岡おでんスタイルで、真っ黒いツユと上にかかったダシ粉が特徴。中でも、とろっとろの牛すじの官能的な美味しさは圧巻です。すぐ出てくるのも嬉しい。
第1位は………………「赤ウインナーフライ」! かぶら屋といえばこれにつきるんだよなぁ。赤ウインナーフライに始まり、赤ウインナーフライに終わる。サクッと軽~い衣に包まれ揚げられた、串に刺さった3本の赤ウインナー。半身にソースをまとい、香ばしい芳香を漂わせるこれを、1/2本ずつ噛みしめる。丁寧に手をかけられた、チープな味わいの良さ。いや~、たまりませんね、もう。

 

最後に、かぶら屋といえば1本80円のやきとんも逸品なのですが、部位を語りだすとキリがないので、今回は選考の候補からあらかじめ外させてもらっていますことをご了承ください。が、かぶら屋の焼きものはタレが絶品なので、普段は塩派という方もぜひ、何本かはタレで試してみてくださいね。

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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