究極の目玉焼き
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

究極の目玉焼きを知っていますか?

 

「知っている」という方は、ここから先は読まなくても大丈夫です。それ以外の方、もしお時間があるようなら、少しだけお付き合いください。

 

身近な食材で簡単に作れるプロの料理レシピや節約術など、生活の知恵が満載の雑誌「レタスクラブ」の中に「あの人の1週間お弁当生活」という連載コーナーがあります。著名人一般人問わず、毎日お弁当を作っている方に、一週間ぶんのお弁当の写真を撮ってもらっておいて、それをもとに自分なりの工夫や楽しみについて教えてもらうという内容。その取材、執筆、イラストなどを担当させてもらっていて、僕の数少ない「酒以外」の仕事のひとつでもあります。
毎号ひとりの方にお話を聞いていて、これまでに取材をさせてもらったのが約20人。相手は料理人などではないことの方が多いんですが、それでも「へ~、そんなやりかたがあったんだ!」っていう目からウロコの知恵が、毎回出るわ出るわ。僕はそれを心の中で勝手に「レタスポイント」と呼んでいるんですが、そんなレタスポイントもずいぶんとたまってきました。

 

卵に関するレタスポイント

 

レタスポイントの中でも特に多いのが「玉子焼き」に関するもの。玉子焼きは、ほとんどの方のお弁当のどこかしらには必ず登場する定番おかずで、玉子ものは毎日ひとつは必ず入れるという方も多い人気食材。が、具体的に聞いてみると、驚くことに、誰ひとり同じ作りかたの人がいないんですね。
粉チーズや生クリームを加えて、バターをたっぷりと使って焼く豪華版の人もいれば、なんと少しの塩と水を卵に混ぜて焼くのがこだわり! という、初耳すぎる方法も(ちなみにこれ、試してみたら確かになめらかに仕上がり、その後個人的に取り入れさせてもらってます)。
玉子焼きに比べると若干登場回数は減りますが、おかずあれこれ彩り重視方面のお弁当とは逆の、弁当箱の中焼きそばオンリー! ザ・質実剛健弁当! みたいなパターンで重宝されるのが、目玉焼き。白と黄色のコントラストが茶色一色のお弁当に華やかさと満足度をプラスする、優秀なおかずです。

 

先日取材させてもらった、高校生の娘さんのために毎朝作っているという男性のお弁当にもハンバーグの上に、どん! と目玉焼きが乗っていた。それが妙に艶めかしくて美味しそうなんですよね。もちろん「これ、な~んか普通じゃないですよね? 一体どうやって作ってるんですか!」と聞いてみたところ、これまた初耳のレタスポイントに出会ってしまったんです。
気になる方法はというと、まずはザルの上に生卵をそっと割り入れる。すると、白身のうちの水っぽい部分だけが下に落ちる。最初は不安になるけれど、決して黄身だけ残して落ちきってしまったりはしない。そしたらザルに残った卵を弱火で焼くだけ。とのことだったんですね。

 

いざ、目玉焼き晩酌

 

その晩、さっそく作りましたよね。そりゃあもう。

 

まずは卵とザルを用意します。百均に売っているようなプラスチックのでけっこう。何か受け皿を用意し、その上にザルを乗せる。同時に、フライパンに適量の油を敷いて、弱火にかけて予熱しておく。
静かに卵をザルに割り入れます。すると、ツー、ポト、ツー、ポト。って感じで、確かに水っぽい白身だけが落ちてゆく。ザルをそっと振って、落ちきったな、と思ったところでフライパンに卵を移す。フタをする。徐々に、ジュー、パチパチと、小気味良く卵が焼ける音がしてきます。たまに様子を見ながら、あわてずゆっくり。我が家の環境では約4分で、黄身がほんのり薄~く白い膜に覆われた、美しい目玉焼きが焼きあがりました。もう、オーラからしていつものとは違う。
スルっと滑らせお皿に乗せる。あわてて醤油とチューハイ準備。さて、究極の目玉焼き晩酌を始めていきましょう。

 

まずはお皿の上の目玉焼きをしげしげと眺めてみます。普通の目玉焼きって、周囲は山の裾野のように、徐々に標高が下がってゼロになっていくじゃないですか? ところがこいつは違う。ぷっくりとして、まるで葉っぱの上の水滴のよう。黄身にもまた張りがあって、もはや球体に近い。全体で、上へ上へと成長しようとする意思を感じる。あきらかにやる気が違います。
はしっこの白身部分を箸で切りとり、醤油をたらして食べてみる。うわ~、すごいなこれは。底面はカリカリとクリスピーで香ばしく、本体はぷりっぷり! そして、卵の白身ってこんなに味があったんだ! と驚く美味しさ。
すかさずチューハイぐびぐび。
黄身の頂点にプツリと箸を刺して崩す。そこを中心に醤油を回しかける。こんどは白身と黄身が半々くらいのブロックを食べてみる。ひ~! 黄身が本気出してきた。大人げない。白身がこんなに頑張ってるんだから、もうちょっと手かげんしてあげて! って感じ。上はのほうとろりとコクがあり、下のほうは絶妙な固まり具合でまったりと味が濃い。しかも全体が味のグラデーションを描いている。
またまたチューハイぐびぐび。ウ~、卵の濃厚さとの対比が完璧すぎる!
思わずもうひとつ卵を焼き、こんどはマヨネーズと塩コショウをたっぷりとかけてつまみにしてみましたが、これまた最高に幸せな気分になれましたね。

 

え?  「ザルで濾した白身はどうしたのか」って? 「捨てるなんてかわいそうじゃないか」って? いやいや、そっちはそっちで焼いて食べちゃえばいいんですよ。やる気みなぎる究極の目玉焼きからすれば、落ちこぼれの落第卵。焼きあがってなおやる気のない感じも、それはそれでいいつまみになりました。

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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