「つつまし酒」の日々を振りかえる
酒場ライター・パリッコのつつまし酒

どこまでも広がる酒の可能性

 

当連載「つつまし酒」が、今回で連載50回目を迎えました。毎度毎度のしみったれた話を気にかけてくださった読者の方々に、あらためてお礼を申し上げたい。いただいた感想などが、心から励みになりました。本当にありがとうございます。

 

連載がスタートしたのが2018年の11月30日。ほぼ丸1年。毎週毎週、僕なりのつつましくも幸せなお酒に関する時間について書かせてもらいました。正直、自分でもよくやったなぁと思いますよ。だって、そんなにある? いわゆる、そういうテーマのバリエーション。当初はかなり不安もありました。依頼を受けたはいいものの、いつまで書くことがあるだろうか……と。
例えば第1回の「健康診断後のホッピー&カツカレー」。これは本当に、ここ数年毎年ひそかな楽しみにしていることについて書きました。続いて「缶詰で飲む」「いまさらファミレス飲みにハマる」「おつとめ狩り」と、自分の中のストックを放出していった。まぁ、20個が限界ですよね。「やば、そろそろないぞ」となるまで。しかしながら実は、そこからがおもしろかったんですよね。

 

なくなれば当然、日常生活において常にネタを探している状態に突入します。街を歩けば、「あのチェーン店で飲んでみるのはどうか?」。新しい水筒を買えば、「これに焼酎のお湯割りを入れてみてはどうか?」。スーパーやコンビニに行けば、「あんまり興味なかった食材だけど、この機会にこいつをつまみに飲んでみるのはどうか?」と、常に「酒モード」になっている。酒飲みとしてはこれが楽しい。
また、人の幸せをおすそわけしてもらう喜びにも目覚めました。友人知人が、普段からこっそりひっそりと楽しんでいる、その人なりの「つつまし酒」の時間。それを教えてもらって真似してみる。「松屋」の「牛めし」に、納豆、とろろ、生玉子をぐちゃぐちゃに混ぜる「ふわふわねばとろスタミナ牛丼」、板橋「龍王」の「ギルティーチャーハン」、「福しん」の「ウンパイロウ」と「おともラーメン」。どれもこれも美味しかったなぁ。
そうやって、ただ漫然と生きているだけでは出会わなかったであろう楽しみを知るたび、自分の中の可能性はどんどん広がってゆき、今や「これ、無限に書けるんじゃね?」とすら思える状態になった。酒場ライターとしても、いち酒好きとしても、本当にありがたい機会をいただいたと思っています。

 

いろいろあった1年間

 

ふと1年前を振りかえってみると、この連載でも何度か触れてきましたが、僕はまだ会社勤めをしていたんですよね。その頃なりの楽しみというのも、今では懐かしい。残業でヘトヘトになった夜の「スピード晩酌」、本当にきつかったけど本当に幸せだったな。

 

そういった意味で思い出深いのは、「あこがれのランチ飲み」の回。2月末に会社を辞め、ライターとして独立した翌日。3月1日。それまでも仕事上のストレスってそんなに多くないほうだと思っていたんですが、まるで両肩に羽が生えたように体が軽くて驚いたあの感覚は忘れられません。長年続けてきた、「毎日決まった時間に出社し、決まった時間まで会社にいなくてはいけない」という生活習慣自体が、自分の場合はけっこうストレスになっていたんだな、と、身をもって知った。そんな状態でわざわざ職場のあった池袋へ出かけていき、いつも昼休みに前を素通りするだけだった「キリンシティプラス」で、昼間から飲んだんだよな。あのキラキラとした店内で大いに飲んだ白ワインの味、一生忘れない気がします。

 

最近はありがたいことに、基本的に好きなお酒に関する原稿だけを書いて生活させてもらっており、体力的に大変なことは多いけれども、精神的にはかなりのんきな日々。まぁ現在、ストレスの代わりに両肩に重~くのしかかっている「将来への不安」は、一生消えることがないのでしょうが……。

 

ひとまず最終回&重大発表!

 

あれ? なんだかノスタルジックに1年を振り返っていたら、言いたいことがよくわからなくなってきました。要するに、「会社勤めのストレス」もそう。「将来への不安」もそう。人間、なんの悩みもなく生きていくことなんて、不可能なんですよね、けっきょく。そんな日々の中にぽつりぽつりと輝く「つつまし酒」の時間。それは、はたから見ればみすぼらしかったり、くだらなかったり、取るに足らないようなものであるのかもしれない。けれど人生を少しだけ豊かにしてくれ、明日を生きる活力につながっていく。1年間この連載を続けてきて、そんな確信がより深くなりました。

 

担当編集H氏が付けてくれた「懐と心にやさしい50の飲みかた」というサブタイトル。僕が書きたかったことをすごく端的に言い表してくれていて、大好きなんですよね。そんな50の飲みかたをなんとか書ききれたというわけで、この連載は今回でいったん最終回となります。これまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
続編というか、セカンドシーズンというか、そういったものは、近い将来またどこかの媒体で始まる予感がしていますので、よろしければ引き続き気にかけてやってください。

 

そして最後に重大発表! なんとこの「つつまし酒」、「光文社新書」にて書籍化され、2019年12月中旬に発売されることが決定しました!(Amazonはこちら
詳細は随時おしらせしていきますので、今後とも何卒ひとつ、よろしくお願いいたします。

酒場ライター・パリッコのつつまし酒

パリッコ

DJ・トラックメイカー/漫画家・イラストレーター/居酒屋ライター/他
1978年東京生まれ。1990年代後半より音楽活動を開始。酒好きが高じ、現在はお酒と酒場関連の文章を多数執筆。「若手飲酒シーンの旗手」として、2018年に『酒の穴』(シカク出版)、『晩酌百景』(シンコーミュージック)、『酒場っ子』(スタンド・ブックス)と3冊の飲酒関連書籍をドロップ!
Twitter @paricco
最新情報 → http://urx.blue/Bk1g
 
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