「相続地獄」を彷徨った森永卓郎氏が教える「楽しんでする終活」教則本
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BW_machida

2021/02/04

 

世界一の長寿国・日本が抱える問題は数多有る。ほんの120年前まで40代前半だった寿命が、今や80歳を超えている。加えて進んだ少子化は、地球上のどの国もいまだ経験したことのない「超高齢化社会」を迎えている。そんな長寿であることと引き換えに、雇用や年金問題は言うに及ばず、医療や地域サービスに対する問題と同時に、相続にまつわる問題も顕在化しつつある。書店には、そんな相続にまつわる事々をアドバイスする教則本が並んでいる。そんな中、TVでお馴染みの経済アナリスト・森永卓郎氏の著者『相続地獄』(光文社新書)を入手した。経済アナリストとしての税法的なアドバイスに加えて、ミニカーなどの蒐集家としてもつとに有名な著者の、軽妙かつ説得力のある語り口調に引き込まれていった。

 

2015年1月、相続税法が大幅に改正された。
基礎控除の金額が大幅に下がったことにより、それ以前は富裕層しか対象でなかったものが、中流(すでにこの中流の意識は無くなりつつあるが)家庭も対象となったのだ。

 

2014年以前に亡くなった人とそうでない人では、基礎控除の金額に雲泥の差がある。旧制度では、基礎控除は5000万円+法廷相続人1人当たり1000万円だった。法廷相続人が妻(配偶者)+2人の子どもであれば、総額8000万円の基礎控除が認められたのだ。不動産(自宅の土地と建物)の公定価格と預貯金を合わせて6000万円とか7000万円であれば、相続税を1円も支払うことなく遺産を分割することができた。
2015年1月以降に亡くなった人は、基礎控除の金額は、3000万円+法定相続人1人当たり600万円だ。法定相続人が妻(配偶者)+2人の子どもであれば、総額4800万円しか基礎控除が認められなくなってしまったのだ。

 

とはいえ4800万円。「そんなお金はうちには無い」とうそぶく方は多いはず。
しかし、親の家が大都市圏にでも在ろうものなら、たちまちこの金額は他人ごとではなくなってくる。
そんな相続税法の改正(?)と同時に話題を集めたのが、「生前贈与」の仕組みだ。
この生前贈与についても著者は正しくアドバイスしている。

 

生前贈与が有利になるケースは、とても限られている。贈与税の非課税限度は、年間110万円が上限と決まっている。だが、親から毎年110万円ずつお小遣いをもらって自分の口座に貯金していると、これが非課税の生前贈与であると税務署が認めないことがけっこうある。贈与は貯金するためのものではなく、あくまでも生活費や教育費に充てるためのものでなければならないからだ。

 

「なるほど」と頷くと同時抱く、なんとも言えない不平等感は拭いきれない。
言葉知らずで知られる財務大臣が、昨年末の記者会見で「多くの人が(コロナ)給付金を貯蓄に回している」と憤慨する姿が脳裏をよぎった。
「なるほど根拠はここか」と納得するとともに、この上から目線の「べき論」に不快感を抱いくのだ。
しかし、「いかに相続税を節税するか」は大切なところなので、さらに本書を読み進む。

 

銀行が法律の要件を満たす形で、年間110万円の非課税限度の範囲内でお金を贈与してくれる。親が十分な資産をもっているのであれば、こういうサービスを利用して、今から少しずつ生前贈与を始めるのもよい。
「住宅資金贈与」という生前贈与の制度もある。子どもの住宅を親が購入してあげるとき、上限2500万円までは非課税で渡せるのだ。

 

これも頷けるアドバイスだ。
しかし、この逃げ道を塞がれた観は何だろう。やはり、公明正大にできる節税には、どちらを向いても巧みな網の目が張り巡らされている。
などとアナーキーな意識を募らせても問題は解決しない。ましてや、そんな思いは「終活」を意識する世代に前向きな暮らしを与えてくれない。
では、贈与税と戦うのではない、もっと前向きな「終活」は無いのだろうか。
と、ここでもユニークな経歴を持つ著者が、とても興味深く、かつ実践的なアドバイスをしてくれている。

 

ある大物芸能人が、自宅にあるものの生前整理を一気にやったと聞いた。なにしろ昔からずっと超一流芸能人だから、トラック何台分ものお宝が家の中にはいっぱいあった。(中略)
にもかかわらず、面倒くさがって「全部引き取ってくれ」と不用品整理業者に丸投げしてしまった。

 

著者は、おそらくこの大物芸能人が整理したものは、総額数千万円か、もしかすると数億円分の価値があったのではないかと言う。加えてこの芸能人は、整理業者に買い取ってもらうのではなく、それどころか処理費用80万円を支払ったという。
さすがに、それほどのお宝が家にあることは無いだろうし、なにがしかの価値がありそうなものなら、読者は皆、ヤフオクやメルカリを連想するに違いないが、さらにメルカリやヤフオクに出品する以上に現実的なアドバイスをする。

 

そして著者は、自分自身であれ自分の親であれ、いつ来ても可笑しくない突然来る日を想定して、そんな心配をしなくていい平穏な今日から、「リスペクトに始まるコミュニケーションをはかるべき」と前置きをしたうえでこう語る。

 

親の生前に金目のものだけ「これもらっていいよね」と譲ってもらえば、親が亡くなったあとに相続の対象にはならない。(中略)
私は自他ともに認めるクレジットカード&ポイントカードマニアだ。「LINEペイをLINEカードのチャージ&ペイにして、特典クーポンを利用すると、コンビニで13%引きの買い物ができる」といった裏ワザを日々研究しているため、手元には膨大なクレジットカードやポイントカードがある。
本人が亡くなったとき、面倒くさがってそれらのカードを一括解約しない方がよい。(中略)
ポイントカードやマイルを甘く見るなかれ。親の財布の中には、何十万円分ものヘソクリが隠れていることを知っておこう。

 

経済アナリストであると同時に好事家としても有名な森永卓郎氏の著書『相続地獄』(光文社新書)を一読すれば、ややもすれば後ろ向きになりがちな「終活」に、現実的かつポジティブに向か合わせてくれること間違いなしの一冊だった。

 

文/森健次

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