akane
2018/06/21
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2018/06/21
「今現在の技術では実現しないし、2~3年先も開発の目処が立っていない人工知能技術」を、なぜか「できる!」「すごい!」と世界中で報道されています。そんなニュースを『誤解だらけの人工知能』著者・人工知能開発者の田中潤が「間違っている!」とズバリ斬りこみます!
2018年4月15日に投開票が行われる多摩市長選挙に「人工知能が多摩市を変える」というコピーで立候補した松田道人さん。結果は残念ながら落選でしたが、ネット上では比較的暖かい拍手で迎えられました。「いずれAIによる政治も可能性としては考えられるかもしれない」と話題になっていますが、専門家である田中さんは「フェイクだ!」と憤りを隠しません。いったい何が問題だと言うのでしょうか。
はっきり言って「どうしてこうなった?」の一言に尽きます。驚きを隠せません。
「AI市長」を謳う松田さんは、AIによる予算編成、AIによる自動運転の推進、AIチャットボットによるチャット相談などを謳っています。しかし、いずれも現時点ではできません。2~3年先も難しいでしょう。
今は技術的にできないことも、AI市長が誕生すればできるのでしょうか。あるいは選挙とは「できないこと」を主張しても咎められないのでしょうか。本当に不思議な話です。
本件については、2つの問題を指摘したいと思います。
1つは「AI」政策の実現性です。例えばAIによる予算編成は、はっきり言って聞こえは良い。人間が介在しなければ、公正無私でバイアスのかからない予算が実現しそうな気がします。
しかし、誰がどうやって予算配分モデルを作成するのでしょう。松田さんはBUSINEE INSIDERのインタビューで、「モデルは将来複数のモデルを提示する」「何かあったら責任は市長が負う」と明言していますが、それは現在の政策遂行過程と何ら変わりません。
仮に予算配分モデルが完成したとします。しかし、それは「数字化できる分野においてのみ」です。世の中には数字にできていない事象がたくさんあります。例えば市内にいるホームレスの数、貧困層の割合、予算要求額に対する本当に必要な予算などもそうでしょう。
モデルにするというのは、今あるデータにおいてのみ最適化されるのであって、それは「数字にできないものは見殺しにする」という宣言に等しいと言っても過言ではありません。
AIチャットボットによる市長への相談も、実現への目処は遠いでしょう。上記に指摘した問題の通り、決まった答えの無い問題には、答えようがありません。
そもそも紙の目安箱では何故いけないのでしょうか。双方向で対話したいのでしょうか。現状のチャットボットは相手の質問を上手くかわす技術ばかり進歩しているのですから、かえって市民から反感を買うだけです。
チャットボットの成功事例として、横浜市資源循環局が提供する、ごみの分別案内のサービス「イーオのごみ分別案内」は有名です。ごみの名前を入力すると、イーオが出し方を案内してくれます。
例えば「スマホ」と入力すると「携帯電話なら、分別方法は、小型家電リサイクルまたは、販売店へ…」と案内してくれます。面白いのは普通、ゴミには出せない「夢」と入力すると「「何を捨てるかで誇りが問われ、何を守るかで愛情が問われる。」って、スティーブ・ジョブズは言ったそうだよ。捨てる前にもう一度自分に問いかけてみね。」と答えてくれます。
入力されたパターンから類推して、面白おかしく答えることはできますが、言葉の意味や背景を理解して答えられるわけではありません。「夢」に対する回答も、「これでいいんじゃないですか?」と誰かがデータを登録したに過ぎないのです。
チャットボットの利用は用途に合わせることが大切です。果たして市長への相談は、チャットボットの特徴やメリットに合致するのでしょうか。
人工知能とは技術です。擬人化した機械ではありません。人間もできるから、人工知能もできるだろ、といった考えでは絶対に上手くいきません。どうやって実現するのかに言及が無い人工知能を扱ったニュースは、相当注意して見た方がいいでしょう。
もう1つは、本ニュースを何の疑いもなく推薦している経済界の大物が複数人いらっしゃる点です。IT業界に詳しいのなら、なぜ技術的問題点に対する指摘がないのか不思議です。
AI市長というのは、一見すると面白そうな内容です。AIが行政を変えてくれる可能性はあるかもしれません。しかし、それとこれは話が別です。だからといってAIを使う候補を無尽蔵に支援していたら見識を疑われても仕方ないでしょう。
専門家であればこそ、それどうやって実現するの? という鋭いツッコミを投げかけなければならないでしょう。そうでなければ、人工知能(AI)、ディープラーニングがマーケティング用語として使われる日が無くなることありません。
「注目されるだけいいじゃないか」という反論もあるでしょう。しかしニュースを見て「これできるんですよね」と言う人が多くなるだけで、現場としては「ちょっと勘弁してよ」という思いが強くなるだけですね。
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