加藤登紀子『心をととのえるインテリア』茶話 (1)コペンハーゲンの「昼灯り」に魅せられて
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2020/08/12

今や、家はくつろぐだけの場から「働いて、くつろぐ場所」へ。
コロナ禍のもと、インテリアへの関心は高まる一方です。7月に出版された『心をととのえるインテリア』の著者で、これまで取材で1000軒を超えるお宅を取材してきた加藤登紀子がこの本の実例取材で訪れたコペンハーゲン&パリの、本に書ききれなかった現地情報をレポートします。

 

2019年11月4日、コペンハーゲンへ。
今回の書籍『心をととのえるインテリア』では
女性クリエイターのお宅のインテリア取材、そして北欧家具の歴史に名を刻む、
伝説のマイスター取材などを予定していて、期待がふくらみます。

 

 

コペンハーゲン空港着。現地スタッフとミーティングを兼ねた夕食をとりホテルへ。 
鐘楼の音が、夜の闇の中にすいこまれるような静寂です。

 

 

11月5日AM8時。カーテンを開けると……なんて美しい! 淡いブルーのフィルターをかけたような風景です。聞けば、日の出(11月は7時40分頃と遅めです)後の約1時間はゴールデンアワーともいわれ、低い位置にある太陽の光が大気中の深いところまで達して柔らかい光を放つのだそう。魔法にかかったような美しさということに、心から納得。

 

 

そして部屋にポツン、ポツンと灯っていく琥珀色の灯りが人々の暮らしに温かさを添えているようで、しばらく見とれてしまいます。日本では朝から照明をつけることによい印象がありませんが、コペンハーゲンでは話が違います。それはひとつには光の質の問題だと改めて気づかされます。

 

コペンハーゲン中央駅。ヨーロッパの駅はどこも旅情がありますが一列に連なるペンダントライトは、さすが照明王国です。1日フリーパスを買い、デンマーク国鉄DSBが運航するエスト―(鉄道)で北上。「CARE BY ME」(最良のカシミアを中心としたライフスタイルブランド)のディレクター、 カミラの家へ向かいます。

 

 

30分程で下車し、車で数分走ると、静かな湖に沿った住宅街へ。
「デンマークは島が多く、名前のある島だけでも400。そのせいで海岸線が長く、国民ひとりあたりにすると1.5mの長さがあるそう。また、海岸から300mは個人の建物を建てられない規則になっており、これは自然の海岸へ誰でもがアクセスできるようにという配慮からです。夏になると、海岸線が少ないドイツの観光客がデンマークのサマーハウス地帯にこぞって訪れ、夏だけ人口が3倍になるような小都市もあるんです」とコーディネーターのMさん。
カミラの家の庭先は湖に面し、プライベートレイクのある暮らし。コペンハーゲン中心街から1時間足らずでこれほど豊かな住環境があるのは、なんとも羨ましいかぎり。

 

ここは建築家の夫が設計した一戸建て。愛犬はオールド・イングリッシュ・シープドックのカーラ。湖畔まではほんのひと歩きで、夏はスイミング、冬には氷の張った湖でスケートも楽しめる。

 

湖を一望できるリビングダイニングで、「キャビン(船室)に住んでいるようです」とカミラ。やや薄曇りのこの日、午前中ではありますが、随所に柔らかな灯りを灯しています。

 

ダイニングテーブルの上には、世界的照明ブランド「ルイスポールセン」の「PHランプ」。カミラの両親から受け継いだもの。照明器具も代々使い続けていくのですね。

 

夏以外は日照時間の短いデンマークで、照明に求めるのは眩しさのない良質な灯り。それらの人工光を、自然光と上手に調和させています。

 

そしてこの「PHランプ」は安価なものではありませんが、街を歩いていると何軒もの家の窓から目にします。信頼にたるものと長くつきあう、という精神がインテリアにも見てとれます。

 

 

 

そして心を穏やかにする、魔法の灯りがキャンドルです。
ソファ前のテーブル、部屋のコーナーなど随所に陽だまりをつくるように灯されています。日本でも特別な日や夜だけではなく、曇天の日のひと時に自分のために灯してみると、部屋にも心にも小さな変化が生まれるでしょう。

 

デンマークではアロマキャンドルよりシンプルな無香料のキャンドルが好まれようです。最も歴史のあるキャンドルメーカーは1777年に創業した「ASP-HOLMBLAD(エーエスピー ホルムブラッド)」。デンマーク王室御用達ですが一般家庭でも愛されていますが、その多くは無香料の白いキャンドル。再生可能なステアリン酸を原料とし、一般的なパラフィンキャンドルよりは煤が少なく、ロウがたれにくいのが特徴といわれます。

 

ソファ前のテーブル。その場にいる人の心を集めるようなキャンドル。ソファに置いたスローは、カミラのブランド「CARE BY ME」。
部屋のコーナーにもキャンドルを。部屋の輪郭を見せることで、視覚的な広がりもうまれます。

 

北欧らしいシンプルな家に暖かみを添えているのが、カミラがディレクションする「CARE BY ME」のファブリック。ネパール高地の最良のカシミアやオーガニックコットンをつかったホームファブリックやウエアなど、大人の女性にふさわしいライフスタイルブランドです。

 

子育てに一段落した2012年、恵まれた自分の人生に感謝をして、なにか社会の役に立ちたいと…… 友人と二人で描いた夢は、この家の一部屋をヘッドオフィスとして始まったといいます。

 

何度もネパールまで足を運び、現地の女性スタッフたちの学びの場をつくり、大きな家族のような親密さで成長しきたい、そんな真摯な思いでつくられた品々です。

 

カミラの家、というよりデンマークの多くのインテリアは多くの色をつかいません。木の質感に、白、グレイ、ブルーグレイなどの抑えられたカラースキームです。ですが素材にはとりわけこだわり、フェイクではない自然素材を厳選しています。

 

ソファやベッドの居心地を決めるファブリック。ベッドに置いた「CARE BY ME」のクッション。そのうっとりするような優しい手ざわりに癒される。

 

撮影を終え帰路につこうとすると、「ここまで来たのだから、ぜひルイジアナ美術館は見た方がいいわ。ランチができるカフェもあるので、車で送っていくわ」とカミラ。

 

コペンハーゲンから北へ延びる、デンマークのリビエラともいわれる海岸線に面した美術館。自然と一体となる建築で世界一美しい美術館とも賞されています。

 

ルイジアナ美術館のエントランス。

 

美術館は幾つかの建物に分かれていますが、その間を結ぶのがガラス貼りの回廊。この地に古くからある大木(写真参照)を避けた配置になっています。

 

大きく枝を伸ばした古木。伐採はせずに、自然を生かし寄り添う建築プランを。
回廊から見た庭園。

 

国公認の美術館ガイドでもあるコーディネーターのMさんが案内してくれたジャコメッティ・ルーム。生い茂る樹木と池を背景に、彼の代表作『歩く男』が。「美術館とて変化して、時代とともにあるべき、という思いが込められた象徴的な展示です」と熱のこもったレクチャーを。そして「この建物の最初の持ち主は3度結婚していますが、3人のファーストネームがルイーズだったことから、美術館は名づけられたんですよ」という裏話もうかがいました。

 

 

アートからエネルギーや心の平穏をもらい、同じ空間で一息つけるミュージアムカフェはユートピアのような場所ですが、この美術館はまた格別です。オーレンス海峡を望める奥の特等席は、ウィークデーにもかかわらず多くの人々が集っています。

 

テーブルの上にはペンダントライトを。

 

館内にはオシャレなキッズルームがあり、子供たちのためのワークショップも開催されます。子供の頃からアートやデザインに触れることで、プロポーションや色のバランスのよしあしが分かるようになり、将来心地よいインテリアをつくる大きな力になるでしょう。

 

 

飾りたてることはしないけれど、自然の景観を大切にし、インテリアも良質の自然素材を多用して暮らすデンマークスタイルに触れた1日でした。

 

加藤登紀子 かとうときこ
東京生まれ。日本女子大学卒業。フリーのエディター、ライター。
「住む人を幸せにするインテリア」をライフワークとし、国内外の1,000軒以上の家を取材。幅広いネットワークをもち、ライフスタイルに関わる企画も多数手掛ける。また「デザインオフィス シュエット」を主宰し、住宅・商業施設のインテリアコーディネートも行う。月刊誌『HERS』の連載をまとめた著書『大人の幸せなインテリア 女性がくつろげる家・40軒』(光文社)がある。Instagram: @tokiko.maison

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