【対談】木村椅子×本山聖子 小説宝石新人賞受賞後の変化とは?
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ryomiyagi

2020/01/24

左:木村椅子氏、右:本山聖子氏

 

二〇一七年五月、第11回小説宝石新人賞を同時受賞したふたり。
約二年半の月日を経て、デビュー単行本が同時刊行された。
『ウミガメみたいに飛んでみな』は受賞作を含む、家族と青春がモチーフの短編小説集。
『おっぱいエール』は乳がん患者三人の、それぞれに苦悩しつつも、前向きに過ごしてゆく日々を伸びやかに描いた長編小説。
デビュー作への思い、そして戦友の作品について、語りあった。

 

新人賞から単行本デビューまでは大変で、でも恵まれた二年半でした

 

ーー第11回小説宝石新人賞の受賞から二年半が経ちました。どんな二年半でしたか?

 

木村 大変でした(笑)。受賞する前は、自己満足で書いていましたが、商品としてのジャッジをされるわけですから。その戸惑いがありました。いっぱいボツになりましたし。

 

ーーデビューされてから、変わったことは? できるようになったこととか。

 

木村 逆にできなくなったことのほうが多い気がします。「計算して書こう」と思うようになりまして、それまでは感覚で書いていたものを、なぜそう書くのか、自分に説明しなければいけなくなったんです。書くスピードが遅くなりました。勢いで書くことができなくなったことが、いちばん大きく変わったことかもしれません。

 

本山 私は、新人賞受賞の連絡をいただいて喜んでいたその十日後に人生二度目のがん宣告を受けました。受賞できた、うれしい、今までの苦労が報われた、と思ったところだったので、大混乱でした……。喜びと、不安と恐怖で、毎日気分が上がったり下がったりして、自分の気持ちを落ち着けるのに時間がかかって。

 

受賞作が掲載された「小説宝石」の二〇一七年六月号の発売日の翌日が手術の日だったんです。編集部に行って見本を受け取って、そのあとすぐ入院しました。手術した後、しばらくは全然動けなかったんですが、母が「小説宝石」を窓辺に立てて、見えるように飾ってくれていたので、一晩中「小説宝石」を見つめていました。その夜は私にとって、忘れられないものになりました。

 

受賞したときに編集長から、次の短編の締め切りを言っていただいていたので、「それだけは絶対に書きたい!」と思えたのが大きな希望になりました。

 

でも、木村さんと同じで、書くスピードが落ちました。書くのが怖くなったり、「これは本当に面白いのだろうか」と考え込んでしまったり。どこまで書けば、自分に満足のいく作品になるのか、わからなくなったこともあります。悩みつつ、体のことも気になりつつ、あっという間の二年半だったと思います。

 

ーー短編の新人賞は、受賞されても、それですぐ本が出るわけではありませんものね。

 

木村 新人賞をいただいて、商業誌に作品を掲載しているわけですから、その意味では自分はプロなのですが、単行本を出していないと、物書きの世界では、「まだプロではない」とも言えるのだと思います。社会との繋がりや自分の立ち位置に悩みました。プロでもアマチュアでもない、「半プロ」ですので。

 

本山 ある意味恵まれていて、幸せな時間だったなとも思います。自分の作品が、本という形になっていなかったので、どこか安全な場所で守られているような感覚がありました。担当編集さんからいただく感想だけが、唯一、外と繋がれる光でした。

 

 

ーーそうした濃密な時間を経て、刊行されるデビュー単行本。お互いの作品を、どう読まれました?

 

本山 この対談のために、木村さんの作品のゲラをお送りいただいたんですが、それが、とても重くて。私が試行錯誤しながら書いてきた二年半、木村さんも同じように書いてこられたんだな、ということを実感して、なんだか泣きそうになってしまいました。

 

木村 そのことについてメールいただいたんですけれど、本山さんのゲラ、僕はPDFでもらっちゃったんですよね……(笑)。だから、うまく反応できなくて。あ、でも、僕もファイル容量の大きさで実感しましたよ(笑)。

 

本山 一編をのぞいて「小説宝石」に掲載された作品だったので、内容はわかっていたんですが、あらためて読んで、とても面白かったです。それ以上に、一緒に受賞した同期として、嬉しかったです。作家はもちろん個人事業主なので、ひとりひとりが頑張るしかないんですけど。

 

お父さんと亡くなったお母さん、実家にいる妹との関係だったり、父親と息子の関係だったり、お祖母ちゃんと孫の関係だったり、どの作品でも、家族がテーマとして浮きあがってくるので、誰でもきっと、「自分の家族と似ているな」と感じることができるのではと思いました。「この世界のどこかに存在する家族の物語」のような気がして、情が湧くお話だなと。

 

私、いちばん好きなのが「その金色を刈り取るもの」という作品で、中学生の男の子二人とそれぞれのお兄ちゃんが出てくるんですが、多感な時期ならではの微笑(ほほえ)ましいエピソードがたくさんあって。

 

木村 単行本にまとめることを想定して、「家族」というテーマを意識していたので、バリエーションを考えていました。で、兄弟が書きたいな、と。
うちの中学がある地域は、当時、「少年マガジン」に出てきそうなヤンキーが結構いたんです。学校から出たら、外に短ランボンタンの人たちがズラッと待ち構えていたり、塾の駐輪場で半裸の男子生徒がチェーンを振り回していたり(笑)。僕は転校してその学校に入ったんですが、それまでの学校とのギャップにやられました。だから、どう振る舞えば、彼らに見つからずに生きていけるか、すごく考えたんです。そのときの雰囲気を書いてみたいと思っていたら、ああいうキャラクターが出来上がってきました。

 

本山 何げないシーンやエピソードを、どの作品でもうまく切り取っていて、登場人物にとって人生の転機になるような大事件ではなくても、成長の過程でこういうことあったよね、立ち止まって悩んだよね、と思わせてくれるような作品集だと思いました。
「家族」だけじゃなくて「死」も複数の作品に出て来ますよね。身近な人の死だったり、その死を周囲の人がどう受け入れていくかという、私たちの誰もが人生のどこかで経験することを扱っていて。

 

木村 子どもの頃から、すごく死ぬのが怖かったんですね。子どもって、まだ脳が未熟だから、幽霊っぽいものを見るっていう話を聞いたことがありますが、僕もそうだったのか、よく見ていたんです。渦巻きの中に人が吸い込まれていっちゃう様子とか、当時住んでいた家の寝室とお茶の間を隔てているのがレインボーのカーテンだったんですが、その上に人が乗っていたり、人影がいっぱい見えたりしていました。幽霊じゃないっていうのは、当時の自分にもわかっているんです。だけど、見えてはいる。それがすごく怖くて、自分はいつか、あの渦巻きに飲み込まれて死ぬんじゃないかって怯(おび)えていました。たぶん、想像して自分で作っちゃっていたんだと思うんですけどね。それと、金縛り体質でもありました。多いときは一晩に七回かかったこともあって。特に、数学の授業中に金縛りになったときは苦しかった……。

 

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