ryomiyagi
2020/01/22
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2020/01/22
――この本を書くきっかけになったのは、森田さん自身が育児に際して、「正解がわからなかった」からだそうですね。医師の森田さんでも、わからなくなるものなんですか?
森田 実を言うと、出産する前は自分が子育てに悩むとは予想していなかったんです。子育てのことをよくわかっていなかったということも大きいですが、赤ちゃんの診察や採血をしたこともありますし、新生児室に出入りしたこともありましたから、だいたいのことは「わかったつもり」だったんです。
でも実際に赤ちゃんを産んだあとに助産師さんに「時間がきたら授乳してくださいね」と言われて、生まれたばかりの息子と二人きりになった時に「えっ? どうしよう」と思って。
――いきなりお世話の責任者になってしまう。
森田 そうなんです。昔は、身近に子育てをしている人がいたり、年の離れたきょうだいがいたりして、何となく知っているということが多かったのかもしれませんが、今は授乳ひとつにしても教えてもらわないとわからない。
そのあとも戸惑うことの連続でした。
おっぱいをあげても泣きやまないし、離乳食も情報はたくさんあるけれど、どれが正しいのかがわからない。
当時は福島県に住んでいて、実家は遠いし、夫は仕事で不在のことも多く、ママ友もいない。全部自分で判断しなくてはいけない状況で、このままでは続かないと思いました。
きっとほかのママたちも同じ想いをしているのではないでしょうか。
そこで、疑問に思ったことは自分で調べることにしたんです。
――読んでいて一番「なるほど」と思ったのは、「“寝かしつけ”は頑張らなくていい」でした。私も本当に悩まされたんです。
森田 夜だけじゃなくて、日中もこの泣きやまない子をどうしたらいいのかと悩みますよね。
乳児湿疹も出るし、そろそろ離乳食と言われても、そんな余裕は持ちづらい。
――手が回らない。昼間もいっぱいいっぱいなのに、さらに夜に大声で泣かれるとどんどん体力を消耗します。
抱っこしてようやく寝たと思って、布団に寝かせるとまた大声で泣かれてという繰り返しで。
森田 私も子どもが生後2カ月半ぐらいの頃に、本当に寝なくって困ったことがありました。仕方なく夜8時、9時ぐらいに抱っこして散歩に行ったんです。散歩していたらやっと泣きやんで、よかった、これで座れる、寝られると思って、もう一周ぐらいして家に帰って、ベッドに入れたら、またギャーっと泣き始めて、あの時はショックでした(笑)。
その時は6時間ぐらい、うちの子は眠っていなかったんですけど、赤ちゃんがこんなに寝ないというのが普通のはずはないんじゃないかと。
「赤ちゃんは泣くのが普通です」
とか、
「寝ないこともよくあります」
とか、
「理由はなくても泣くこととかあります」
といったいろんなアドバイスがありますよね。
それは確かにそうなんですけど、これが普通だから頑張ってと言われても、私にはちょっと無理だなと思ったんです。
――そう思いながらも世のママたちは「みんなそうやって頑張ってきたんだ」と自分を励まして頑張り続けています。
森田 そうですよね。私はたまたま子どもがうつらうつらしていてふっと目が開いた時に、その目がどろんと座っているのを見て、「私はこの子が寝なくて困っているけれど、この子も眠いのに眠れなくて困っているんじゃないか」と思ったんです。
その時に初めて、「これを解決できるのは親である私しかいない。自分にできることをやってみよう」と思い、すぐに調べ始めました。それまでもわからないことはたくさんあったのに、調べることさえしていなかったんですけど、私がこの子の責任を持たないといけないんだと思って。
いろんな文献を読んでいると、こんなことあるの、これはこうだったのって、新しく気づくことがたくさんありました。それを実践したら寝るようになったんです。わずか3日で。
――どういうことをやったのですか?
森田 まず生活リズムを整えました。朝、起きる時間と、夜、寝る時間を決めて。お昼寝のリズムもだいたい理想の形に合わせるようにして、夜になって寝るまでの流れも決めて、「はい、そろそろ寝ますよ」というふうに。抱っこして歩き回るのではなく、とにかくベッドの中に入れてあげて、「よしよし、ここでねんねするよ」というやり方にしてみました。
それをやったら、1日目は1時間泣いて寝る。2日目は20分泣いて、20分もぞもぞして寝る。3日目は5分も泣かずに寝る、とトントン拍子にうまくいきました。その日は、自分の時間が突然できたので、何をしていいのかがわからなくなって、子どもがお昼寝中に読んでいた本の感想文を、facebookにアップしました(笑)。
――まさに、快挙ですね!
森田 すごくうれしかったのと同時に、「なんでこれ、私が三日でできることを、今まで誰も私に教えてくれなかったの?」と思ったんです。一般的な育児書は、ずいぶん読んでいたのですが、こういうことも書いておいてほしかった。それで、私が伝えていけたらいいな、と。その経験が、今回の『科学的に正しい子育て』に繋がっています。
――生活のリズムを整えることや就眠儀式について、この本にも詳しく書いてありますね。
衝撃だったのは、子どもが一人で寝られるよう訓練することは、パパとママだけではなく、子どもにとってもいいことだ、という部分です。泣いて、すぐに反応しなくても大丈夫、愛着的な障害にはならないと。
もっと早く知りたかった(笑)。
森田 そうですね。もちろん子どもが泣いた時、すぐ反応することが悪いわけではないんです。
でも、夜中に30分おきに泣く赤ちゃんもいて、そのたびにあやしているお母さんに、「泣いたら抱っこしてください」と、私は言えません。
「お母さんは寝ていても大丈夫なんですよ」と言うためには、理由が必要です。
その理由を示せば、お母さんたちは安心して寝られると思いました。
――子どもが泣いているとつい無理をしてしまう。
森田 はい。今、昭和大学で子どもの睡眠障害、不眠症の診療をしているのですが、夜泣きは、生活リズムの乱れや精神的な乱れ、環境の変化で泣くこともある一方で、入眠時関連型と言って、寝る時の習慣、たとえば寝る時にいつも抱っこしている、おっぱいを飲むことを続けていると、それが睡眠と結びついてしまうケースもある。
夜中に目が覚めると、寝たいがために「それをやって!」と泣いてしまうことが一つの要因としてあるんです。
それを解決するには、睡眠と抱っこや授乳とを切り離さないといけません。それは泣いたらすぐに抱っこ、すぐに授乳というのをやめないと治らないんです。
それが要因の一つだということが、もうちょっと知られてもいいと思っています。きっとそれが助けになる、お母さん、お父さんもいらっしゃるはずですから。取り入れたい部分を選んでいただけたらうれしいですね。
――妊娠前、妊娠中の食事についても書いてあります。葉酸と鉄に関しては、サプリで補給した方がいいということですね。私は90年代に子育てを経験しましたが、当時「葉酸」という単語は聞いたことがありませんでした。
森田 葉酸の重要性がさけばれるようになったのは、赤ちゃんの神経管閉鎖障害という先天異常の予防になることがわかってきた1990年代後半からです。もっとも神経管閉鎖障害を起こすリスクは低く、でも、そのリスクをさけるためには飲んだ方がいいとわかったということです。
妊娠雑誌やサイトを見ると、葉酸を勧める広告はたくさん見かけるのですが、そういう説明も含めて葉酸について「学ぶ機会」はほとんどありません。
――それを、この本では丁寧に説明してあります。
森田 今の科学では、鉄分もしっかり摂ったほうがいいと言われていて、推奨の摂取量もしっかり出ているので、それを摂るためには、実際、このくらいサプリメントで補わないと無理かなと思っています。
――サプリの選ぶ時は何を目安にすればいいですか?
森田 とくに高価なものでなくてもいいですね。普通にドラッグストアで買えるような、手に入りやすいもので十分です。私もそういうものを飲んでいます。どんな成分かがシンプルにわかるもののほうが、安心して飲めるかもしれません。
――サプリに抵抗を持つ人もいるのですが、その方たちには、どんなアドバイスをされますか?
森田 実際のところサプリを、特に鉄については飲んでいる人は少ないように思うのですが、それで何か困ったことが起きているかというと、そうとも限りません。
葉酸についてもそうですが、科学的なデータを知った上で、「でも私は飲まなくてもいい」という選択もあっていいと思っています。
この本は『科学的に正しい子育て』というタイトルですが、科学ですべてがわかっているかというと、そうでもないんです。たとえば、さっきの鉄の話にしても、サプリで鉄を摂ったほうがいいのか、なんとかして食事から摂ったほうがいいのか、普通の鉄とヘム鉄ならどちらがいいのか、など、まだ明らかになっていない部分もあります。
――絶対にこうしなくてはいけない、というよりも、こんな選択肢がありますよ、いかがですか、と教えてくれる内容ですね。
明日公開する次回の記事では、離乳食について質問します。
卵を食べさせる時期、肉を食べさせる時期を勘違いしていないでしょうか。どうぞお楽しみに。
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