嶺里俊介 体重を三十キロ削った作品「地棲魚」発刊記念エッセイ
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ryomiyagi

2020/01/20

モチーフの一つは『糸』。紡がれた人の生き様が背景になっている。いろんな生きものたちも登場する。

 

執筆中は夜も昼もない。いつでも食事できるように台所で大鍋におでんを仕込んでいると、突然後ろで居間のTVが点いた。大方近所から飛び込んできた信号に反応したのだろう。

 

確認したら、『ダーウィンが来た!』の再放送だった。紹介されていたのはサイホウチョウ。東南アジアに生息する鳥で、くちばしで木の葉に穴を開けてクモの糸を通し、器用に巣を作るらしい。おでんを煮込みながら、このネタは使えるとばかりに興味深く番組を視聴。おいしくいただいた。

 

また、この作品には火事のシーンが登場する。屋内での炎の動きを確かめるために、自分の部屋を密閉して小さな火を熾してみた。

 

風もない部屋の中でも炎は揺らぐのだろうかと呑気に構えていたが、とんでもない。アルマイト洗面器の上に生まれた小さな火は一気に噴き上がり、貪欲に酸素を求めて天井を舐めはじめた。

 

私自身の身体もまた、酸素濃度が低くなったことに対して敏感に反応した。総毛立ち、毛穴が閉まる。筋肉が強張り、思うように動けない。咳が止まらなくなって涙が溢れてきた。

 

このまま脳が低酸素症になったら意識を失う。ぎこちなく身体を動かしながら、風呂場の残り湯で消し止めた。

 

たいへん参考になったが、生みの苦しみはさらに続く。

 

なぜあのとき火を消し止めてしまったのか。楽になれたのにーー。そんな思いにかられたことは一度や二度ではない。

 

この作品には怨念のようなものが籠もっているので、何卒ご注意ください。世界滅べ。

 

受賞後三年間で九十四キロあった体重が三十キロ減った。文芸ダイエットは侮れない。本気でダイエットを考えている人は新人賞に取り組むのも一つの手なので、ぜひお試しあれ。

 

『地棲魚』光文社
嶺里 俊介 /著

 

【あらすじ】宿命の「敵」は、出会った瞬間から手段を選ばず殺しにきた! 命を吸って生きてきた「敵」の戦慄の正体とは!? 第19回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞の著者が満を持して放つ伝奇ホラー・サスペンス力作長編。

 

PROFILE
みねさと・しゅんすけ 1964年、東京都生まれ。2015年に『星宿る虫』で第19回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。翌16年にデビューする。他の著書に『走馬灯症候群』。

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