『シェア』著者新刊エッセイ 真梨幸子
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BW_machida

2022/03/29

シェアという名の暗黒面(ダークサイド)

 

とにかく私はシェアが苦手なのである。特に、食べ物のシェア。具体的にいえば、鍋。大勢が、直箸で鍋をつつくその光景を想像するだけで、寒気がする。

 

それには訳がある。

 

母子家庭育ちで、孤食が当たり前だった我が家では、鍋というものが出たことがなかった。すき焼きはたまに出ていたけれど、鍋というより、牛肉の煮物という形だった。つまり、複数人でひとつの容器から食べ物を取り分ける……という文化が、我が家にはなかったのである。テレビや映画で見ることはあったけれど、それは架空のなにかで、現実にあるとは夢にも思っていなかった。だから、社会人になって、はじめて鍋パーティーを目の当たりにしたときのカルチャーショックときたら。色とりどりの箸が鍋の中を縦横無尽に泳ぐ。それは、おっさんたちがぺろぺろ舐めた箸で、あるいは、食べカスがついた箸である。不特定多数の唾液と残滓、そして雑菌が、これでもかと混ざり合う。しかもである。最後は、「いい出汁がでたなー」などと言ってご飯を投入、雑炊を作るのである。女子社員もおっさん社員も、「美味しい!」と言いながら食べていたけれど、私には、おぞましい乱交にしか見えなかった。

 

こんな風に考えてしまう私のほうがおかしいのだ。ずっとそう悩んできたけれど、コロナ禍の今、私の考えはそう極端な間違いではなかったように思う。ウイルスや菌は、まさにシェアすることで広がっていくのだから。

 

無論、シェアはいい面のほうが圧倒的に多い。共有して、分配する。人類はそれをすることで社会性を育み、共同体を作り上げ、そしてここまで進化することができたのだから。

 

が、なにごとにもリスクは存在する。そう、いわゆる暗黒面だ。

 

三月末に上梓予定の『シェア』は、まさにそういう小説だ。

 


『シェア』
真梨幸子/著

 

【あらすじ】
鹿島穂花(40)は、相続した古い民家をシェアハウスにすることに。しかし、想定外のリフォームをして借金を負い、さらに工事中に床下からとんでもないものが。六人の女性入居者たちはワケアリで、次第に雲行きが怪しくなり……これぞイヤミス!

 

真梨幸子(まり・ゆきこ)
1964年、宮崎県生まれ。2005年「孤虫症」で第32回メフィスト賞を受賞してデビュー。『殺人鬼フジコの衝動』『向こう側の、ヨーコ』『縄紋』『一九六一東京ハウス』など著書多数。

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