akane
2019/02/19
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2019/02/19
子育て支援による子ども増・人口増・税収増で注目されている兵庫県明石市。「子どもを核とした街づくり」の中心となっていたのが、前市長の泉房穂氏です。
過去の発言から「暴言市長」として問題となり先日辞任をされましたが、泉氏は明石市長としてどのような思いで、数々の政策を実行してきたのでしょうか。
泉氏と社会活動家の湯浅誠氏が、藻谷浩介氏や村木厚子氏、さかなクンなど様々なゲストを迎えて論を交わした光文社新書『子どもが増えた! 明石市人口増・税収増の自治体経営』の刊行を記念して、その一部を特別に公開します。
藻谷 今回のお話をいただき、改めて明石市の最新の人口を確認して、度肝を抜かれました。
湯浅 どの点に驚かれたのでしょうか?
藻谷 図1を見てください。2013年3月末と18年正月の住民票を比較して、0~4歳人口が増えた全国市町村のベスト15ですが、明石市は700人近くの増加で、なんと全国5位です。
よく「人口が増えた」「減った」と言いますが、それは総人口の話。年齢別に確認しないと実態は見えません。日本全体でいえば、同じ直近の5年弱に総人口が67 万人減っているのですが、そのうち半分近くの31万人が、残念なことに0~4歳の乳幼児の減少なのです。
たとえば大阪市は、総人口はマンションの急増で3万9000人も増えましたが、0~4歳児は3000人弱減っている。ちなみに京都市でも神戸市でも、乳幼児は減少中です。首都圏一都三県でも、総人口は73万人も増えたのに0~4歳児は3万人近く減りました。中でも減少数の大きかったのが横浜市です。そんな時代に、明石市では0~4歳児が増えている。
0~4歳の乳幼児は、5年経てば5歳以上になります。ですから0~4歳児が5年前に比べて増えているということは、そのまちで最近5年間に生まれた子どもがその前の5年間に生まれた子どもより多いか、あるいは、それ相応の数の子育て世代が乳幼児を連れて移り住んできているということ。そういう市町村は、マンションなどが激増した大都市圏のごく一部のまちを除けば、子育てのしやすさが住民から特段の評価を得ているところだけです。
「子どもを大切にするまち」と唱えるのはいいのですが、実際の数字はなかなか、思い通りにはならないものです。でも明石市では、宣言通りのことが起きていたわけです。
泉 今ね、うち(明石市役所)の局長や部長級の娘や息子が次々と明石へ帰ってきているんです。18歳19歳の大学進学で京都とか大阪とか神戸とかに出て就職し、結婚もしてしまった娘や息子が子どもを産んだ後で、また明石へ戻ってきています。明石市の子育て支援策が充実しているからです。だから私は言ってます。高校出て一人娘が出ていってしまっても、結婚相手を見つけて、子どもも産んでトリプル(3人)で帰ってこいという施策やと。そして、帰ってから2人目を産んだら4人だと。1人減っても4人になる。これがまちを元気に、にぎやかにする。
湯浅 先ほどの図を見ると、関東では東京特別区を筆頭に、川崎市(神奈川県)、流山市(千葉県)、つくばみらい市(茨城県)、関西では吹田市(大阪府)などがあるようですが、これらのまちと比べた場合に、明石市の特徴というのはあるんですか。
藻谷 0~4歳児が増えたまちには、4種類あります。第一は東京特別区や川崎市、吹田市、福岡市のように、都心に至近で、かつ家族向けのマンションが激増している地域。
第二につくばエクスプレスの沿線(つくば市、つくばみらい市、流山市、三郷市など)のように、いまだにニュータウン開発の進んでいる地域。そういう地域の中でもごくごく一部、子連れ世帯の流入がきわめて多いところだけが、乳幼児が増えるレベルまで達しています。ですがなかなかそこまではいかない。たとえば兵庫県内では特に好調だと思われている西宮市。総人口は増えていますが、0~4歳人口が年率1%以上の速さで減っています。そこを乗り越えて乳幼児が増えても、今度は保育園などの子育て支援施設が全く足りませんから、実は引っ越した後が大変です。しかも開発が終われば流入も止まり、何十年後かには、高齢者ばかりのマンションや戸建て住宅が並ぶ地域になることが懸念されます。
それに対し第三のパターンは、過疎化が進んだ山間地や離島で、若い移住者が増えているケース。過疎地では都市部とは逆に高齢者も年々減っており、子育て支援も充実していますので、私としてはお勧めの地域なのですが、誰でも移住できるわけではありませんよね。
そこに現れた第四のパターンが明石市です。過疎地ではなく大都市にも通勤可能ですが、都心からは遠いし、ニュータウン開発も行われておらず、マンションもあまり増えていない。にもかかわらず乳幼児が増えているのは、子育てにやさしいまちというブランドが確立されたために、若い家族が流入し、かつ既存住民の出産も増えているのです。単なる子育て支援策なら全国でやっているのですが、それがここまで強固なブランド形成につながっている例は、他にはほとんどありません。流山市や福津市(福岡県)なども子育て重視をブランドにした成功例ですが、開発中のニュータウンのある点が明石市とは違います。
泉 マンションは10年ほど前までは建っていましたけど、今は戸建てですね。
藻谷 素晴らしいことです。マンションではなく、ニュータウンのように大規模な開発でもなく、戸建てに住む若い世帯が増えるということが本当に大事です。マンションもニュータウンも、数十年後に住民が一気に高齢化して問題となることは確実ですから。
また、若い人が増えているといっても、多くの大都市の都心部のように、ワンルームに住む独身者が増えているだけでは、乳幼児の増加にはつながらない。それに対して明石市で0~4歳人口が増えているということは、今ますます貴重になっているミドルクラスの、「とにかく私は子育て優先で」という人たちが明石を選んでいるとしか思えないのです。湯浅 子育てのしやすさを示す指標として、よく使われるのは合計特殊出生率(そこに住んでいる女性が生涯に産むであろう子どもの数の平均値)です。そうではなく0~4歳人口を見るのは、どういった意味がありますか。
藻谷 合計特殊出生率は、「プロ野球選手の打率」みたいなものです。ある年にたまたまよくても、次の年にガーンと落ち込んだりする。それだけでは、長期的・平均的な評価ができません。また、子どもの数は出生率に加え親世代の数にも左右されるので、「出生率は高いが、若者は流出を続けており、子どももどんどん減っている」というケースが多々あります。逆に出生率が下がっていても、それは直近に若い未婚者がUターン・Iターンしてきた結果であって、近未来には彼らが逆に出生を増やすと予想されるケースも、ままあるのです。
対して0~4歳人口の5年間での増減は、過去5年分の蓄積をもとにした安定性の高い数字です。単年度限りのイベントの効果では変えられない、ある程度、継続的・構造的に子育て支援をしていないと動かない指標なんです。
0~14歳の「年少人口」もありますが、これは過去15年間の蓄積を反映する数字なので、10年以上前の頑張りの結果だけで増えたり、あるいは最近の努力の結果を反映せずに減ったりします。だから「うちは子育てしやすいまちなんだろうか」「うちの市長は頑張っているのか」ということを知りたければ、まずは0~4歳人口の直近の増減を見るべきなのです。
(後編へ続く)
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