ryomiyagi
2020/01/27
ryomiyagi
2020/01/27
本書は、埼玉県で起きた一家殺害事件の犯人で、拘置所に収容中の少年死刑囚が脱獄するという、突飛なところから物語が始まる。
法務省矯正局によれば、全国の矯正施設(刑務所、拘置所、少年院など)から逃走した者は平成だけでも二十九件、三十六人もいるようだ。一年につき、ほぼ一件の計算。あってはならないことだが、けっして珍しいことではないというのが実情のようだ。
記憶に新しいのは二〇一八年警察署から逃走し、その後自転車で日本一周を目指す旅行者に成りすまして逃亡を続けた男ではないだろうか。堂々かつ自然な振る舞いに、男と接した人々はまったく疑うことはなかったという。当時散々ニュースで騒がれ、顔写真も出回っていたのに、だ。
こう言ってはなんだが、案外できてしまうものなのかもしれない。 だが、本書の核となる少年は未成年であり、拘置所に収容されていた絶対的な死刑囚である。
わたしにとってはかなりエキセントリックな設定で、冒険だった。 が、けっしてハードボイルドなものではなく、逃亡中の少年の日常を他者の目から見て綴っただけの物語である。
少年の正体は聖人か、怪物か。
いったい、この少年は何者なのか。
わたしもベールに包まれた少年の正体を知りたくて、その欲求だけで書き進めた。
想定よりもだいぶ長くなってしまったが、この物語を書くことができてよかったと心から思っている。 もっとも、本当に「よかった」かどうかを決めるのはわたしではない。どうか多くの人にジャッジしていただきたい。
『正体』光文社
染井為人/著
【あらすじ】一家惨殺事件の犯人が脱獄した。その殺人鬼は未成年の死刑囚という。東京五輪会場の工事現場、新興宗教にすがる主婦たちが働くパン工場、人手不足に喘ぐ介護施設。潜伏し逃亡する彼の真の目的は? 横溝正史ミステリ大賞出身作家が挑む、社会の歪みに隠された真実。
【PROFILE】そめい・ためひと 1983年千葉県生まれ。芸能プロダクションにて、マネージャーや舞台のプロデューサーも務める。2017年『悪い夏』で横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞しデビュー。
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