akane
2019/12/25
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2019/12/25
宮部みゆき『理由』朝日新聞出版
東京都荒川区の超高層マンションで起きた凄惨な殺人事件。殺されたのは「誰」で「誰」が殺人者だったのか。ノンフィクションの手法を使って書かれた心の闇をえぐる名作。
「学生時代に読んだが、今読んだほうが“現代性”を感じるすごい作品。多くの人の現実が溶け込んでいて、犯人の動機や行動原理などすごく恐ろしい。今だからこそのリアリティがあり、明日起こってもおかしくない」
桐野夏生『柔らかな頬』文藝春秋
夫と娘とともに、友人・石山が持つ北海道の別荘に招かれたカスミ。実は石山とは不倫中。夫と娘を捨ててもいいと決心した朝、娘が行方不明になる。カスミは罪の意識にさいなまれるが……。
「学生時代に読んだときもすごいと思ったけれど、母になった今、子どもが行方不明になる事件が起こると必ずこの作品を思い出す。また母になってから見ると、このタイトルもグッとくる。胸が締め付けられる作品」
恩田陸『中庭の出来事』新潮社
ホテルで脚本家が死ぬ。容疑は発表予定の芝居の主演女優候補3人に。警察は女優たちに脚本家の変死をめぐる一人芝居を演じさせようする――という戯曲執筆中の劇作家がいて……。
「何層も入れ子になった、酩酊感のあるミステリー。虚と実、内と外がめまぐるしく反転し、気がつけば元に戻されているのが心地よい。日常をむき出しのまま受け取るのではなく、日常と非日常の間を育ててくれる作品」
深木章子『極上の罠をあなたに』KADOKAWA
議員の息子が誘拐され、身代金要求が犯人から来た。金を工面しようと事務所の金庫へ向かった秘書が暴漢に襲われ、現金を奪われる。だが、その金は偽札だったと警察から知らされ……。
「次に何が起こるか予想がつかない本格ミステリー。深木さんは60歳まで弁護士をされていた方。日常が“社会派ミステリ”のような現代だからこそ、著者の描くフィクションとしての謎解きやだまし合いの軽妙さを楽しんで」
呉勝浩『スワン』KADOKAWA
ショッピングモール「スワン」でテロ事件が起き死傷者が出た。犯人と接しながら生き延びた高校生のいずみは同じく事件に遭遇し、大けがをして入院中の同級生・小梢に告発され……。
「地方性、社会性、SNSなど現代的なテーマを入れ込みつつ本格ミステリー的なガジェットも用意。“自分ならどうする”と考えさせられる一冊。力のあるミステリーの後輩作家が出てきたことが頼もしいです」
PROFILE
つじむら・みつき◎’80年、山梨県生まれ。千葉大学教育学部卒業。’04年『冷たい校舎の時は止まる』でデビュー。’11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、’12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、’18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。著書に『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『朝が来る』『東京會舘とわたし』など
聞き手/品川裕香
しながわ・ゆか◎フリー編集者・教育ジャーナリスト。’03年より『女性自身』の書評欄担当。著書は「若い人に贈る読書のすすめ2014」(読書推進運動協議会)の一冊に選ばれた『「働く」ために必要なこと』(筑摩書房)ほか多数。
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