akane
2020/01/23
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2020/01/23
第1回目の記事はこちら
――第2回目は、まず離乳食についてです。私は90年代に子育てを体験しましたが、時代によってこれほど「常識」が変化することに驚いています。
森田 ここ3年ぐらいで、特にアレルギーについては、大きく変わったと思います。
――どういうふうに変わりましたか。
森田 以前は、
「卵とか牛乳とか、アレルギーになりやすい食品は基本的には避けたほうがいい。なるべく食べさせるのは遅くしたほうがいい」
というのが一般的でしたが、今はそれがくつがえって、
「少しずつ早い段階から食べさせたほうがいい」
と、全く逆のことが言われています。
――たった3年でそんなに変わるのですね。
森田 最初に言われ始めたのは10年くらい前で、ここ3年くらいで定着してきました。
卵については、生後6カ月から少量ずつ摂取したグループと、摂取しなかったグループを比べると、摂取したグループの方が、卵アレルギーの割合は80パーセント近くも少ないことがわかっています。
――衝撃です。私も子どもたちが1歳になるまで卵は食べさせないように注意していましたから。お肉も食べさせていいんですね。
森田 離乳食のOK食品、NG食品というリストを雑誌やネット上で見かけるのですが、離乳食が始まってしばらくは、お肉はNGと書いてあるんです。でも、外国ではすぐにあげる人もいます。日本ではあげる人は少ないし、一般的ではないけれど、NGではないんです。
その微妙なニュアンスを伝えたくて、詳しく解説しました。
――森田さんご自身は、どうしていましたか?
森田 離乳食はけっこう調べながらやっていたので、私はわりと最初から、肉もあげていました。
――担当編集者の樋口さんは、この本で知ったそうです。
森田 日本では、まず白身魚からと言われていますよね。
でもよく考えると、白身魚を食べる国ってそんなにたくさんあるわけじゃないんです。だとしたら、その国ではどうしているのかと思って調べてみると、アメリカでは、チキンやビーフを普通に食べさせていました。
――日本では、離乳食の初期は、薄いおかゆやスープを与えるように言われていますが、それでは必要な栄養を満たすことができないともありました。本書の第三章のタイトルにあるように、まさに「離乳食と食の常識はつねに更新されている」のですね。
森田 医療は、戦後の40年代、50年代までは、感染症の克服が課題でした。今は慢性疾患の対処、これからは予防医療が課題になります。その流れの中で育児も、感染症で命を落とす乳幼児が多かった時代と比べれば、健康に育てるためにどうしたらいいかという研究がどんどん増えているんです。だから今は、新しい知見がどんどん生まれています。
――この先、また「常識」が更新される可能性もありますか。
森田 もちろんあると思います。結局、何が正しいのかわからないこともある。ただ、今の時点で、科学的な証拠、エビデンスのあることが真実に一番近いことだろうというのが、私の立場です。
だから50年後にまた常識が変わるとしても、現時点のベストはこれだから、それを実践しようと思っています。
――「科学的に正しい」ことをすべての人が実践すべきということでもないと書かれているのが印象的です。
森田 はい。科学的に正しいことが、その人にとって本当に正しいかどうかは、わからないんです。99パーセントの人に効くというデータがあっても残りの1パーセントの人にとっては、効かない可能性もあります。
また、たとえば子どもの肥満は、ジュースを飲ませない方が解消できるとわかります。それは正しいことですが、もしそれでママのストレスが増えるとしたら、「絶対に飲ませてはいけない」とは言えないんです。やっぱりママもパパも赤ちゃんも幸せに暮らすことがすごく大切だと思うので。
だから、たとえば自分に余裕があるとしたら、どれができるのかな、どれをやった方がいいのかな、という時の参考にしてもらえればいいと思ってこの本を書きました。
――森田さん自身は、離乳食でお肉も与えていたということでしたが、お忙しい中、どんなふうに進めていましたか?
森田 私はひどかったですよ、本当に(笑)。
――そうなんですか(笑)?
森田 最初は、おかゆペーストを自分で作っていたのですが、2回食になってくると、肉じゃがのようなお料理を作る必要性が出てきます。すると、子どもの食べられる柔らかい煮物って、パターンが三つぐらいしかなくって。
冷凍しておいた肉じゃがとひき肉の煮物と魚の煮物を、毎日順繰りに解凍してあげるみたいな感じでした。保育園のない週末は、昼と夜、違うメニューを考えることが無理で、昼はレトルトのお弁当セットと、決めていました。
保育園がなかったら、けっこう厳しかっただろうと思います。毎日、肉じゃがになってたかも……(笑)。
――レトルトも便利ですよね。
森田 本当に便利です。しかもよく食べるんです。人参も自分で煮ると、何分煮たら柔らかくなると何かに書いてあるからそうしたのに、まだまだ硬かったりする。でもレトルトは、いい感じのとろみがついていて、すごく柔らかい。しかも味付けも、ほんのり甘くて、子どもも喜んでたべていました。食べ終わったら容器ごと捨てることもできるので、外出時などに持ち歩くにも便利ですよね。
あとは、私は盛り付けが苦手で……インスタ映えしない感じでした(笑)。
――盛り付け? インスタ映え? それも私の常識にはありません。
森田 Instagram、すごいんです。お料理が元々好きなママさんたちだと思うのですが、きらびやかな離乳食がずらりと出てきます。これはもう、こういう才能の方なんだと思って。これを普通だと思わないようにしよう、うちは納豆ご飯でいいですよね、みたいな感じで自分を納得させました(笑)。
――十分ですよ。
森田 離乳食のレシピもけっこういろいろ出ていて、おそらくバリエーションを求めるがゆえに、1週間違うメニューが並んでいるものもあるんですけど、それは私の家では厳しいなと。バリエーションは求めないから、もっと栄養がちゃんと摂れて、作るのが簡単で、子どもが食べるメニューを、4個か5個ぐらい教えてくれたらそれでいいんだけど、とすごく思いました。
――意外と普通で安心しました(笑)。
森田 はい。私は、妊娠中は、赤ちゃんが生まれたらこんな服を着せようとか、そんなことばかり考えていました。あとは、教育に目が向いていて、「褒めて育てる」とか、そういう本はいっぱい読んでいたのですが、育児に関しては、自分は大丈夫だと思っていたんです。「だって私は医者だし」みたいな。「寝かしつけてるって、そんなの眠かったら寝るでしょ」と。なんの根拠もなく。
何も知らないのに、知らないことに気づいていなかった。だから、自分がこんなに夜泣きで困ると思っていませんでした。離乳食もそうですが、実際に体験して初めて、気がつくことばかりでした。
――そこから、ご自身で調べたということですね。たとえば、私たちもインターネットでいろいろ調べたりしますが、正しいかどうか、参考にするかどうかを見分けるポイントを教えてください。
森田 一番確実なのは、論文が引用してあること。それが確実な根拠にはなります。もちろん、その論文がどのくらい確かなのかは、専門家でないと判断が難しい部分はあるのですが、論文を引用して書いてあるものであれば、一般的にはそこそこ信用できるものだと思います。
あとは、何か商品を売るための広告ではないということ。その二つが、見分けるポイントでしょうか。
――育児は、わりと宗派のようなものもあって、その輪の中にいると、その常識に染まってしまうこともあります。いろんな思い込みに基づく、ある種、マウンティング的なアドバイスも。
森田 そういった常識や言葉から少し楽になってほしいと思います。この本にも書きましたが、母乳神話もまだ根強いですし、アレルギーや予防接種、ステロイドについてもたくさんの意見があります。
――自身の経験をベースに語っている人も多いですね。
森田 先輩ママから「これはこうなんだよ」と言われて、自分のやり方を否定されると、それだけで落ち込むこともあります。
私はある方から、「育児はアートなのに、科学だなんて」と、言われたことがあるんです。たしかにアート的な部分もありますし、宗教的な部分もあります。たとえば科学的な、医学的なことだけが大切なのではなく、教育をどうするのか、どういう方針で育てるのか、といろいろなことが関わってきます。だから、繰り返しになりますが、私は科学だけで語れるとは思っていません。
ただ、今の社会の中で一番客観的なものは、科学かなと。アートだから科学を否定するのではなく、アートの中に、科学があって、真実を取り入れていくと、大きな間違いは起きないと思います。
――なるほど。よくわかりました。
最終回は、東大医学部卒のママ医師の森田さんに、しつけや教育について質問します。
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