ryomiyagi
2020/01/11
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2020/01/11
『歩道橋シネマ』新潮社
恩田陸/著
直木三十五賞、山本周五郎賞、日本推理作家協会賞に2度の本屋大賞受賞……。ミステリー、ホラー、ファンタジーに青春モノとジャンルを限定せず、多くの読者を魅了し続ける恩田陸さん。’19年には直木賞と本屋大賞をダブル受賞した『蜜蜂と遠雷』が松岡茉優と松坂桃李らによって映画化され大ヒットしました。
新作『歩道橋シネマ』は恩田ワールドを堪能できる短編集です。’13年から’19 年の間に執筆された、2ページの掌編から30ページの短編までの作品が18編収録されています。
少しご紹介すると……。火力発電所の煙突が四方を切り取ってスクリーンのように見えるという歩道橋。噂に聞いていたその歩道橋を私は偶然、見つけます(「歩道橋シネマ」)。ホッパーの絵に描かれているような家を見た記憶のあった私。
その家にはいつも同じ3人がいました(「線路脇の家」)。生徒会長が眠り続けている進学校・天啓学園に取材に来た記者。校内を案内する生徒会副会長から「道をはみ出したりせず、自分が通った後をきちんと歩いてきて」と取材に関して忠告を受けるのですが……(「球根」)。
閉店間際の地方銀行で立てこもり事件が発生。現場にいた被害者たちの証言をたどっていくうちに、驚愕の真相が明らかになります(「ありふれた事件」)。
「これまで5年ごとに3冊のノン・シリーズ短編集を出してきましたが、今回は少し間があいて7年ぶりになります。一冊にまとまったのをみると、それぞれ書いていた時代の社会情勢やマイブーム、自分の経験や気分、そのときの試行錯誤などが思い出され、感慨深いですね」
恩田さんは満面の笑みを浮かべながらうれしそうに話し始めました。
「18編もありますので、収録する順番は考えました。読み心地がバラバラになるように並べたつもりです。今回はややホラー寄りの作品が集まったかもしれません」
たしかに「線路脇の家」も「球根」も「ありふれた事件」もホラー的な要素に満ち溢れた快作です。
「『線路脇の家』を1話目に持ってきたのは“日常の地味なところから入って全く別の出口に出る”という短編ならではの面白さを意識したため。この作品は画家ホッパーの絵がヒッチコックの映画『サイコ』に登場する家のモデルになったと知ったのがきっかけで書いたのですが、私自身がバブル崩壊後に経験した“あること”も織り込みました。『球根』は文芸誌のエロ・グロ特集の依頼で書いた作品で、あっけらかんとした語り口が気に入っています。中に書きましたが、以前から、球根は中身がぎっちり詰まっていて、隙あらば出ようとしている感じがエロいと思っていまして(笑)。『ありふれた事件』は私にしてみたら珍しく見通しを持たないまま書き始めた作品です。立てこもり事件を書いていて、どういうオチなら嫌だろうか、と考えました。詳細は言いませんが、このラストなら絶対に嫌なはず(笑)」
一方、表題作はどこかノスタルジックでファンタジー的な要素もある作品です。
「再開発が全国で進み、どこに行っても景色が均一化されるのが怖いと思って書いた、私にとって原点回帰のような小説になりました。短編集はいろいろなチョコレートの入った箱に似ていると思います。どこかに統一感はあるけれど味も形もバラバラ。それぞれの作品の味を楽しんでいただき、これらを入口に、連なる小説も読んでいただければうれしいです」
ゾクッとしたりニヤッとしたりズキッとしたり。読後、湧き起こる感情も楽しめる濃密な一冊です。
おすすめの1冊
『アンダーニンジャ』講談社(ヤンマガKCスペシャル)
花沢健吾/ 著
「今も忍者が秘密裏に存在し、一部の精鋭忍者と仕事にありつけない末端の忍者に分かれている。その末端のニート忍者を巡る話。国家レベルの大きな話と狭い日常生活の話が一緒になっているところがステキな作品です」
PROFILE
おんだ・りく◎’64年、宮城県生まれ。’92年、小説『六番目の小夜子』でデビュー。’05年『夜のピクニック』で第26回吉川英治文学新人賞および第2回本屋大賞、’06年『ユージニア』で第59回日本推理作家協会賞、’07年『中庭の出来事』で第20回山本周五郎賞、’17年『蜜蜂と遠雷』で第156回直木三十五賞および第14回本屋大賞を受賞。
聞き手/品川裕香
しながわ・ゆか◎フリー編集者・教育ジャーナリスト。’03年より『女性自身』の書評欄担当。著書は「若い人に贈る読書のすすめ2014」(読書推進運動協議会)の一冊に選ばれた『「働く」ために必要なこと』(筑摩書房)ほか多数。
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