発達障害の子を育てた大学教授がすすめる「障害に気づいてからやって良かった3つのこと」
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ryomiyagi

2021/05/12

「なんだか周りの人のようにうまくやれない」「人とものの見方が違う」「生きるのがしんどい」。違和感を抱えながら生きてきた大学教授のもとに生まれた子どもは、発達障害だった!自分もその傾向があった父親は時に悩み苦しみ、そして開き直りながら、障害と付き合う生き方を模索していく――。発達障害親子のユニークな日常奮闘記『大学教授、発達障害の子を育てる』(光文社新書)を紹介します。

 

 

最善の道を見つけるためには!

 

本書の著者・岡嶋裕史さんには、双子の子どもがいる。そのうち息子だけが自閉症スペクトラム障害であると知ったのは、幼稚園に上がる手前の2歳半ばごろのことだった。息子の成長に違和感を覚えたきっかけは1歳のとき。音楽教室に参加させたところ、ほかの子は先生の言うとおり活動できているのに息子には全く先生の指示が耳に届いていないようだった。
しかし、その時点では障害を疑うことはなかったという。当時は娘の方が成長が遅く、手のかかる子どもだったからだ。加えて、母子センターの主治医にはいつも「双子の発達はゆっくりだからね~」と言われていた。

 

お医者さんにそう言われたら、無理に自分の子が障害児だなんて思いたくないのが親心ではないか。色々「あれっ?」と思うことがあっても、結局このお医者さんの言葉が頭にあって、他に受診に行く発想と行動が遅れたとは思う。

 

そうして2歳半になってようやくほかの医者に診せて「障害ですね」とばっさり告げられたのだ。確定診断を受けたことは、あまり良い思い出ではないと岡嶋さんは振り返る。それでも、診断が出たことで発達障害のための療育を始められたことは、岡嶋さんの息子にとって良い方向に働いた。

 

発達障害の診断と改善のための努力は、いまだ発展途上にある取り組みで、医療機関の人、療育機関の人の語る言葉に、まだばらつきがある。自分の子にあう話、あわない話、受け入れられる話、受け入れられない話、色々ある。
子どもや家庭にとっての最善の道を見つけるために、出来るだけたくさんの話を聞いておこう。

 

意外とふつう?な療育施設

 

発達障害と診断されたことを受けて、岡嶋さんの息子が幼稚園の代わりに通ったのが療育施設だ。療育施設は民間か自治体の施設かで方法論、通所形態、療育時間にバリエーションがあるが、子どもの負担がちょっと軽い幼稚園のようなもの。療育施設のプログラムは、それほど特殊なことをやるわけではないという。

 

言葉の指示が通らない子が多いので、絵カードが充実していたり、ノイズ情報が多いと混乱するので、環境の構造化というか、今すべき活動と関係のないアイテムが極力省かれて、すっきりした部屋になっていたりと工夫がなされている程度である。

 

そのほかに行われているのも、定型発達の子にも学びの効果があるような教育メニューだ。特別な訓練・教育が受けられると期待した人にとっては肩透かしになるかもしれないが、療育の利点は少人数で先生に面倒を見てもらえること。少人数の指導によって、岡嶋さんの息子はかなり成長を見せたそうだ。

 

そう、障害のある子でも能力は伸長する。もちろん、定型発達の子と比べるとその伸び幅は小さく留まるが、ちゃんと我が子の成長は実感できるし、嬉しい。機会があれば療育は受けておくべきだと思う。

 

療育のメリットはほかにもある。岡嶋さんの息子は、周囲にあまり興味を持たずおとなしい性質の自閉スペクトラム。おとなしすぎる息子に「下手すると寝たきり少年に育つ」と心配していた。ところが親しくなった多動症の子のおかげで、活発に変わったのである。同じ療育施設にいる異なる障害を持った子どもたちと接することが、良い刺激になるのだ。

 

知能検査、受けるべきか、受けざるべきか?

 

発達障害の改善に取り組む過程で、知能検査というものがある。知能を定量的に数値で示し、「得意分野や不得意分野を見極め、学習指導の方向性や、発達支援の有無を判断」することが検査の趣旨だ。

 

満艦飾にいいことずくめである。
でも。そうはいっても。
知能をはかる物差しが与えられれば、優劣を感じずにはいられないものだと思う。

 

能力の差が数値化されるとなんとなしに壁ができる。できる子、できない子で隔たりができるのは、切ない。ただ、岡嶋さんはそれでも知能検査はした方がいいと話す。

 

検査を受ければ、多かれ少なかれ傷ついたりはするのだ。しかし、永年積み重ねられてきた評価尺度は伊達ではない。数値化されたその子の能力は、かなり正確にその子が今必要としている支援、将来進むべき方向を示すのだ。

 

障害は病気のように治療できるものではないが、それに対する適切な対応方法を本人や周りの人が身に付けていくことはできる。だからこそ、将来のために早めにわが子の立ち位置を知り、どんな療育を受けたらいいのか知ることは重要なのだという。

 

こうして岡嶋さんが自身の経験からくるアドバイスを発信するのは、「子どもと過ごす“今”を楽しんでほしい」という思いがあるからだ。岡嶋さん自身は、障害のことで悩みすぎずもっと子育てを楽しめばよかったと後悔がある。子どもとの「今」を楽しむために、本書の知恵とユーモアをぜひ生かしてほしい。

 


『大学教授、発達障害の子を育てる』
岡嶋裕史/著

 

文/藤沢緑彩

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