発達障害の子どもを東大に入れたシングルマザーが語る「才能のひらき方」
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ryomiyagi

2020/08/19

撮影・須藤明子

 

「いえ、本当にね、わからないんですよ。私がいったいなにをどうしたから、あの子が東大に入れたのかが」
こう言って笑うのは、秋田県潟上市で美容室を営む菊地ユキさん(51)。
シングルマザーの菊地さんは、地域で初めて発達障害の診断を受けた長男を女手一つで育て上げ、経済的にも時間的にもまったく余裕のない暮らしのなか、苦労の末に東大の大学院に入れたのだ。

 

8月19日には、『発達障害で生まれてくれてありがとう〜シングルマザーがわが子を東大に入れるまで』(光文社)を上梓した。

 

その本の「はじめに」で、菊地さんは次のように語っている。
「私は決して教育や福祉、ましてや医療の専門家でもありません」
さらに「あとがき」には「どうして、発達障害の大夢くんは、東大に入れたんでしょう?」「大夢くんをのような子を育てるときのコツは?」「どうやって勉強させたら成績が上がったの?」などと周囲から問われるたびに、菊地さんは真剣に考え、思いを巡らせてはみたものの、結局のところ、やっぱりどうして息子を東大に入れることができたのか「正直、わからない」と、ここでも著している。

 

それでも、菊地さんが日々の子育てのようすを詳細に綴った本書を紐解くことで、幾つかのヒントは見つけられそうだ。
ここでは何回かに渡って、菊地さんがいかにして長男・大夢くんを育てたのか、どうして大夢くんは東大に入れたのかを、紹介していきたい。

 

「わが子は発達障害」という事実を、すすんで公にした

 

それは、いまから20年近く前、長男・大夢くんが小学1年生のとき。まず、大夢くんに「発達障害の疑いあり」という診断がおりる。
そこで、母・菊地さんは、20冊もの専門書を読み漁り、発達障害とはどういうものかを学び、わが子の特性を大まかに理解した。そのうえで、次に菊地さんがとった行動は……。

 

専門書を学校に持参し、担任の先生に息子の行動の理解を求めたという。

 

《私は、小学校の担任の先生のところにも、何冊か本を持参しました。(中略)本のなかでも主に大夢に近い特性が紹介されている箇所や、どういった状況に置かれると、困った状態になるかといった解説部分に、蛍光マーカーで線を引いて、手渡しました。
「先生、この線のところだけでもいいから読んでください。こういうとき、この子の問題行動が、症状が出る感じなので」》(本書より)

 

本に目を通した担任教諭は、大夢くんの級友にも彼が発達障害であるということを「話していいか?」と尋ねたという。それは、先生が彼を特別扱いすることを、ほかの子どもたちに理解してもらうため、と。
それに対して菊地さん、教諭があっけにとられてしまうような、男前な言葉を返している。

 

《そこで、私はこう言ったんです。
「あ、いいですよ。ぜんぜん恥ずかしいことでもないし、大夢が悪いことしたわけでもないですから。皆に教えてやってください。ただ『大夢はADHDだから』と言っても、小学生ではわけわからないと思いますから。『大夢は頭のネジが何本か足りない子なんだって』と、そう教えてあげてください」》(本書より)

 

また、本書では、このとき対応した担任教諭が、当時を振り返って次のようなコメントも寄せている。

 

《でも、私は大夢くんのお母さんは、本当に強い人だな、強い母親だな、と感心していました。なぜなら、発達障害という診断結果を、私たち教師にはもちろんのこと、PTAの会合でほかのお母さんがたにも、「うちの大夢には、このような障害があります」と、堂々と公表したからです。(中略)お母さんが大夢くんに診断を受けさせて、それを学校や父兄に報告、公表されたことで、私たち教師や学校は、大夢くんが学校生活を有意義に過ごせるよう配慮することが可能になりました》(本書より)

 

さらに、母親のこの堂々とした行為が、級友が大夢くんを受け入れる土壌になったと、担任教諭は語るのだ。

 

《また、クラスの子供たちも、ちょっと突飛な行動をたびたびする大夢くんのことを、少々変わった個性の持ち主としてと認め、「大夢は大夢だから」と、クラスの一員として受け入れました。それもこれも、お母さんが診断結果を堂々と公にした、その結果だと思います。》(本書より)

 

もちろん、「発達障害児」の特性は千差万別で、その対応方法もひとくくりには決してできない。だが、少なくとも菊地さんがとった、この「息子の診断結果を公表する」という方法は、多くの同じような子供にとっても有意義なのではないか。
そしてそれは、なにも障害の有る子供に限ったことではない。
わが子としっかり向き合い、わが子が置かれている状況を理解し、わが子の特性をまずは親がしっかりと受け止める。そして、さらに、そこで得たわが子の情報を、学校や周囲の人たちと共有するーー。
これは、学齢期の子を持つ親なら、誰もが取り入れるべき子育て法の基本なのかもしれない。

 

ライター仲本剛

 

発達障害で生まれてくれてありがとう
菊地ユキ/著

 

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