一人の時間が増えているからこそ楽しんでいただけたらうれしい|綿矢りささん新刊『オーラの発表会』
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2021/10/02

撮影/フルフォード海

 

高校時代に文藝賞を受賞して鮮烈なデビューを果たした綿矢りささんも今年で作家生活20年!新刊は、ちょっと鈍感だけれど憎めない女子大生を描いた長編小説です。

 

「ちょっと鈍感な主人公を書いてみたら、賑やかな会話の多い小説になりました」

 

『オーラの発表会』集英社
綿矢りさ/著

 

女性の繊細な心理を丁寧に描写することで定評のある芥川賞作家の綿矢りささん。新刊『オーラの発表会』の主人公は、ちょっと鈍感で世の中の感覚からズレている大学1年生の海松子です。相手の気持ちを推し量るのが苦手なため、突拍子もない発言をしては同級生たちを凍らせますが、海松子が落ち込むことはありません。しかも、幼馴染じみ奏樹(そうじゅ)と、大学教授の父親の元教え子である社会人・諏訪の2人からアプローチもされ……。

 

「これまで他人の気持ちに敏感すぎる人や、人からどう見られているか気にする人を多く書いてきました。それで、今回は人の気持ちは教えてもらわないとわからない、ちょっと鈍感な主人公を書きたくなったんです(笑)。というのも、自分の考え方とほかの人の考え方の違いに気づいたり、相手の考えていることを正確に読み取ったりする能力が発達していないタイプの人は、どうやってほかの人と仲よくなっていくのだろうと思いまして。それで思っていることをそのまま口にしてしまう、どこか子どもっぽい大学生の海松子が誕生しました」

 

観察したことをそのまま言語化する海松子に悪意はなく、人を馬鹿にしたり蔑んだりといったネガティブな感情もないため、読んでいて何度もその「天然さ」に噴き出します。そんな海松子の友達が萌音。“コレ!”と思った相手を完全にコピーする特技があり、海松子は脳内で親しみを込めて「まね師」と呼んでいます。

 

「最近、インスタグラムやツイッターなどにアップされた写真1枚から、それが何という服でどこに売っているとか、どこの場所だとかを特定する人が増えています。指輪が同じという情報だけで、この2人は付き合っているとわかってしまう強者もいる(笑)。萌音はそういう人。人にどう見られているのかものすごく気にしていて、自分ではない何者かに擬態する能力がひときわ高く、身近な人でも臆することなく完璧にコピーできます。萌音もまた人に気を使わない性格で、歯に衣着せず言葉を発する人。海松子の強烈な個性に負けないような個性の持ち主にしたかったんです(笑)」

 

執筆中、綿矢さんが注目していたのは人と人との距離感でした。

 

「相手の気持ちを考えて嫌なことは言わず、距離をちょっとずつ詰めていくのが大人っぽい言動だと世間は考えます。最近の若い人のコミュニケーションもズケズケ言わないのが主流ですが、海松子も萌音もその真逆で雑です。でも、鈍感であるがゆえの、互いに削り合うようなコミュニケーションがあってもいいと思うのです。小説の中にわちゃわちゃした宅飲みのシーンがありますが、スマートなコミュニケーションではなく動物的に集まってきたなかで生まれる絆があると改めて実感しました。そこを書いていたら自分でも楽しくなって、賑やかな会話の多い小説になりました。ステイホームでおうち時間や一人の時間が増えている今だからこそ、楽しんでいただけたらうれしいです」

 

思わず声が漏れるほど笑ってスッキリし、腹の底から力が湧いてくる本作品。人と会いワイワイガヤガヤできない鬱々とした日々にもってこいの、お勧めの快作です!

 

PROFILE
わたや・りさ●’84年京都府生まれ。早稲田大学教育学部卒業。高校在学中の’01年『インストール』で第38回文藝賞を受賞しデビュー。’04年『蹴りたい背中』で第130回芥川賞、’12年『かわいそうだね?』で第6回大江健三郎賞、’20年『生のみ生のままで』で第26回
島清恋愛文学賞を受賞。

 

聞き手/品川裕香 しながわゆか●フリー編集者・教育ジャーナリスト。’03年より本欄担当。著書は「若い人に贈る読書のすすめ2014」(読書推進運動協議会)の一冊に選ばれた『「働く」ために必要なこと』(筑摩書房)ほか多数。

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