加藤一二三九段が引退後に見た「夢」の話。
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ryomiyagi

2019/11/15

 

将棋界のレジェンド・加藤一二三九段のエッセイ『一二三の玉手箱』(光文社知恵の森文庫)より、心に響く言葉の数々をご紹介します。
今回は、引退後に見た「夢」の話。
引退会見では現役生活を終えた心境を「大変スッキリした気持ち」と表現し、「理性では100%引退を受け入れていた」という加藤九段。そのご自身でも気づいていなかった闘志が、引退から9カ月経った頃、夢に現れたようです。

 

2017年、現役引退

 

私は2017年に現役を引退し、その後はテレビ番組や様々な将棋関連のイベントに呼ばれ、将棋について話す機会もいただいている。

 

テレビ番組ではバラエティーによく呼ばれ、歌ったり、ベートーヴェンの指揮をさせてもらったこともある。どの仕事もやりがいがあり、大変喜ばしい事だ。

 

将棋を本職としてきたが、音楽・文学などいろいろなことが好きであったこともあり、どんなテレビに呼ばれても大抵の事は出来る。

 

「ひふみん」という愛称も世間に知られ、私自身も気にいっている。

 

先日は幼稚園児50名ほどに「ひふみーん」と呼ばれ、大変嬉しかった。「ひふみん」という呼びやすさが良いのだろう。

 

引退した今でも将棋の研究は続けている。私自身の名局の研究はもちろんのこと、羽生善治さんや藤井聡太さんといった素晴らしい天才たちの名局についても、研究を続けている。

 

また昨年は旭日小綬章を賜る栄光に浴し、ますます将棋界に貢献していきたいと考えている。

 

引退から9か月後……

 

引退と決まった日、私は将棋会館で戦って、帰宅し妻に「負けた」と告げた。

 

妻は「お疲れ様」といってネクタイをプレゼントしてくれた。

 

負けたら引退という状況はあらかじめ分かっていたから、引退に対して心の中、頭の中では整理がついていた。

 

ところが引退から9カ月たって、こんな夢を見た。

 

私は夢の中で「もしこの将棋に勝てば引退を免れる。勝てば引退しなくて済む」という状況にあり、相手に勝つために作戦を必死に考えていた。

 

目が覚めて、これには我ながら驚いた。

 

引退して9カ月もたっているのだから、今更そんな夢を見るなど、と不思議に思った。

 

だが一方で、理性としては100%引退を受け入れていたつもりが、心のどこか片隅では「現役の棋士だったら良かったな」という気持ちが残っていたのだろう。

 

※この記事は『一二三の玉手箱』(加藤一二三・著)より、一部を抜粋・要約して作成しています。

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