gimahiromi
2019/07/02
gimahiromi
2019/07/02
ここでは、時系列に沿うのではなく、野球に絞って話を進めます。
なぜでしょうか。
それは、「昭和」的だからです。そして、とても個人的な思い出に結びついているからです。
「平成」を振り返れば、それは、野球からサッカーへ、という変化としても語ることができます。いや、できない、という見解もありえます。
繰り返しになってしまいますが、○○から××へ、という変化で語ることができないのが、「平成」という時代です。
「平成」は、数学で言えば、空集合です。
誰もが、「平成には、何かがあるぞ」と思っています。そして、その〈本質〉をつかもうとします。
しかし、つかもうとすればするほど、手からすり抜けてしまう、それが「平成」です。
ですから、何かによって「平成」を代表できない、わけではありません。
誰もがバラバラに、「平成」はこれだ、という断言を繰り返すしかありません。
そして、そのどれもが正しくて、どれもが正しくない。正しいとか正しくないという判定が、誰にもできない。
それが、「平成」です(という判定をする資格は、わたしにもないのですが)。
といった点で、少なくともこの章では、野球にまつわるわたし自身の「平成」体験を語ることによって、異論反論を誘ってみたいのです。
野球は浪花節です。
正確に言えば、日本のプロ野球は、いつのころからか浪花節の舞台になりました。
少なくとも、長嶋茂雄が東京六大学野球で活躍していた1950年代後半までは、高校野球と大学野球という学生野球こそ、野球でした。
プロ野球は、場末とまではいかないまでも、やや日陰です。
戦後に、川上哲治(巨人)の赤バット、大下弘(西鉄)の青バット、藤村富美男(阪神)の物干し竿バット、と、スター選手が復活してプロ野球が盛り上がった、といわれています。
しかし、当時の新聞や雑誌を見る限り、プロ野球への後ろめたさは、根強かったようです。
長嶋茂雄が立教大学に入学するのは、昭和29年(1954年)です。
この時は、まだまだ学生野球、特に、早慶戦を中心とする東京六大学野球こそが、野球の頂点でした。
そこで活躍をして、大企業に就職するのが、エリートコースのひとつです。
その意味で、千葉県の佐倉で活躍していたとはいえ、立教大学に進学した長嶋は、大スターというほどには期待を集めてはいません。
巨人の名選手・名監督だった水原茂の、慶應義塾大学から巨人への入団が話題を集めるほどでした。
大学野球で頂点を極めたら、せめて社会人野球に進んで、仕事と両立する方が普通だったからです。
プロ野球として、文字通り野球を職業(プロ)にするのは邪道というか、あまり歓迎されていなかったわけです。
その後、長嶋茂雄の入団や、同時期に西鉄ライオンズのピッチャーだった稲尾和久の活躍など、プロ野球に注目が集まります。
「プロ野球もバカにしたもんじゃないな」というムードが高まります。
そして、長嶋のデビュー戦での、国鉄スワローズの金田正一からの4打席4三振も鮮烈だった、と、何度も語られています。神話として語り伝えられています。
ようやく、プロ野球は、市民権を獲得していきます。
裏を返せば、長嶋茂雄がサヨナラホームランを打ったことで知られる天覧試合、つまり、天皇陛下がプロ野球の試合をご覧になること自体が、ニュースというか異例でしたから、それくらい、地位は低かったのです。
さて、そこで浪花節です。
日陰の存在だったプロ野球が、徐々にメインになるにつれて、プロ野球選手や試合展開と、人生そのものを重ねてみるようになります。
サラリーマンの悲哀とか自営業者の辛さとか、そういった働くことにまつわるいろいろな感情を、プロ野球に託すようになります。
しかも、長嶋茂雄が入団する昭和33年(1958年)は、岩戸景気が始まる年です。
高度経済成長は、まだまだ序盤です。
「もはや『戦後』ではない」と『経済白書』に書かれたのは昭和31年(1956年)ですから、その2年後で、経済成長が続くと、誰もが信じていました。
テレビの受信契約(その当時は、テレビも携帯電話のように契約が必要でした)が100万件を超え、どんどん豊かになっていく時期です。
サラリーマンとして、都市部で働く人口は増えていましたし、通勤電車や「団地族」という言葉も登場しました。
豊かにはなれそうだけれども、いっぽうで、辛さもあります。
また、終身雇用、年功序列、というその後の日本的雇用慣行もまだ整っていません。
働けば働くだけ豊かになりそうだとはいえ、将来はバラ色というわけではありません。
サラリーマン的なぬるま湯というよりも、いわば、働く人たちはみなプロ野球選手のような厳しい環境に身を置いていました。
だからこそ、プロ野球は浪花節的要素にフィットしたのです。
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