BW_machida
2021/04/23
BW_machida
2021/04/23
妊娠や子育ての苦労話は友人たちとのあいだでよく話題にあがるけれど、妊活の話でこんなに笑ったのは初めてだ。いや、当の本人はしごく真面目なのである。29歳で結婚3年目。夫婦仲は良好。毎日お出かけのキスをして、外出時には手もつなぐ。会話だって(おそらくかなり)多い夫婦にちがいない。しかし、妊活は迷走中。
そもそも夫婦ともに健康なのに、夜の「夫婦生活」はほとんどない。いわゆる、セックスレスだ。それだけではない、作者はいまだに処女。夫婦で本当のセックスをまだ成功させたことがないのだという。つまり、この本は処女のまま26歳で結婚し、処女のままセックスレスに突入した作者が、29歳で妊活を始めるも上手くいかず、どう打破したらいいのかわからない毎日をまとめたコミックエッセイなのだ。
状況は複雑だが、しかしページをめくるほどに作者に親しみが湧いてくる。というより、真剣に妊活に取り組んでいる本だから、きちんと読めば(もちろん楽しく読んでも良い)妊活の基本的な知識を学ぶこともできる。婦人科でのやりとりや不妊治療の難しさ、人工授精の過程など、その情報の多さに驚かされた。
処女を克服し、子どもを作りたいと切望する作者にとって現実はあまりにも厳しい。子どもが欲しいと焦りながら脱処女をもくろみ、夫との旅行を計画。ところが、いざ本番になるとどうしても上手くいかない。妊活を始めるなら早いほうがいいと周りに急かされるが、そもそも自分が処女であることを口に出せずにいる。膣ケアに取り組んでみようとオイルを購入するも恐怖心と抵抗から続かない。というわけでタンポンを試してみるが「自分の体のことなのにわからないことだらけ」で自信をなくしかけてしまう。「前に進みそうで進まない」「体は『普通』なのに、『普通』の人達がしている『普通』のことができない」当たり前のことができないと自分を責める日々が続く。
だからこそ、「戦場へひとりで乗り込むような」覚悟で婦人科を受診してからの作者の心境の変化に嬉しくなる。自分の局部は「普通」で排卵も予定通りある、先生には子宮がきれいと褒めてもらえた。作者によると、家庭用のシリンジ法キットというものがあるらしい。これなら体への負担も少なく、性交渉なしでも妊活ができるのだとか。妊活で自分を見つめ直すきっかけをつかんだ作者は、どうするか。どうなったのか。その答えは、ぜひ本書を手にとって確かめて欲しい。難しいテーマをユーモアたっぷりに扱った一冊だ。
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