BW_machida
2021/06/14
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2021/06/14
「がん」と言うと、不治の病、余命宣告、闘病、そんな深刻なワードが思い浮かぶかもしれません。内閣府の調査では、約7割の人が「がんをこわいと思う」と答えています(令和元年度がん対策・たばこ対策に関する世論調査より)。しかし、そうしたイメージに反して、実はがんは非常に身近なところにある病気です。
(前略)がんは特別な病気ではありません。
むしろ私たち人間にとって、これほど身近な病気はないともいえます。
というのも、私たちの体内では、毎日数千個、多い人では1万個ものがん細胞が生まれているのです。今この瞬間にも、体の中ではがん細胞が誕生しています。
がん細胞は、新陳代謝の過程で生まれます。私たちの体を作る約37兆個の細胞のうち、およそ2%は毎日新しく生まれ変わっています。古くなって正しい働きができなくなった細胞は、細胞分裂によって作られた新しい細胞に置き換わります。これが、新陳代謝です。
細胞分裂の際、細胞は核の中に持つ30億時分もの遺伝情報をコピーして新しい細胞を作り出しています。この作業の中でうっかりコピーミスが生じたとき生まれてしまうのが、がん細胞です。コピーミスで遺伝子が傷つくと、がん遺伝子が目覚めてしまうことがあるのです。
新陳代謝は、人間が健康に生きて行くうえで欠かせないシステムです。その新陳代謝のためにがん細胞が生まれるということは、ある意味人間はがん細胞、ひいてはがんという病とともに生きる宿命にあると言えます。
それでは、私たちががんになることは避けられないのでしょうか?
藤田紘一郎医師は、がんの発症を防ぐにはポジティブな気持ちが重要だと言います。
私たちの体内では、日々、がん細胞が生まれていますが、それを見つけしだい、叩き殺してくれているのが、免疫細胞です。
免疫細胞とはいくつかの細胞の総称であり、それぞれに相当する役割があります。
このなかで、体中をパトロールし、「できそこないの細胞」などあやしい異物を見つけると、ただちに攻撃して排除しているのが、NK(ナチュラルキラー)細胞です。がん細胞にいち早く攻撃をしかけ、がん化するのを阻止する重要な免疫細胞です。
このNK細胞を活性化させるのが、わくわくとしたポジティブな気持ち。藤田先生は、このNK細胞の特質を生かすために、がんになったらインドネシアのカリマンタン島へ行くと決めています。
私ががんになったら、真っ先に好きな場所を旅しようと算段しているのは、わくわくとしたポジティブな気持ちがNK細胞の活性をいっきに高めてくれることを知っているからです。
また、適度な運動によっても活性が高まることが分かっています。藤田先生は時間を見つけては散歩をすることを日課としているそう。
反対に、暗い気分になって落ち込んだり、運動不足になるだけでNK細胞は活性を低下させてしまします。日常のちょっとしたことで働きが高まったり低くなったりするのがNK細胞なのです。この性質を上手く利用することが、がん細胞を抑えつけて健康に生きるためには欠かせません。
既にがんになった人についてもNK細胞の働きの重要性は明らかになっています。咽頭がんになった人のNK細胞の活性とがん再発率の関連を調べたところ、NK細胞の活性が強い人ほど再発後に死亡する割合が低いことが分かったのです。
がんにならないためにも、がんになった後も生き抜くためにも、ポジティブな生き方や考え方が重要だと藤田先生は言います。
NK細胞の活性を高める生活をすること。これが、がんの発生を防ぐことにつながるのは間違いありません。NK細胞の数は、多い人では10000億個、一方少ない人では50億個ほど。人によっては20倍もの差があるのです。
このNK細胞の数の増減、すなわち免疫力の活性には、先ほど挙げた生き方や考え方に加え、加齢も影響しているそうですが、もう一つ重要な要素があります。それは、食べものです。
免疫力を高めてがんを防ぐには、第一に腸の状態を良くできるような食事を心がけることです。
腸は人体最大の免疫器官です。
人の免疫力の約7割が腸でつくられます。そのため、腸の働きをよくすることで、免疫力を高めることができます。
藤田先生は、腸内環境を整え腸内の免疫機能たちを活性化するめにあるものを毎日摂取することをすすめます。それは、酢と食物繊維です。
酢が腸によい理由は、悪玉菌の過剰繁殖を防ぐ働きがあることです。
また、酢の主成分である酢酸には、腸が波打つように動く蠕動運動をうながし、排便力を高める作用があります。
さらに、短鎖脂肪酸の一種である酢酸は腸壁の粘膜細胞のエネルギー源となってくれます。ただし、酢はすぐに腸で消費されてしまい酢の健康効果には持続性がありません。
一方で、食物繊維も腸内細菌のエサになることで短鎖脂肪酸を生み出します。加えて、酢よりも腸に長くとどまることができるという特徴があります。この2つを組み合わせて摂取することにより、相乗効果的に腸の健康を保つことができるのです。
藤田先生がおすすめするのは、「酢キャベツ」と「酢玉ネギ」。
私たちの体の中に、今も生まれているかもしれないがん細胞。その発症を防ぐために藤田先生が提案するのは、生き方のちょっとした工夫です。誰もががんになる売る時代の備えとして、藤田紘一郎先生著書の『もしも、私が「がん」になったら。』(光文社新書)をぜひ参考にしてみてください。
文/藤沢緑彩
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