人種差別、性差別、同性愛者への偏見……アメリカ副大統領の信念「社会は真実を直視することで変わる」。
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BW_machida

2021/07/13

 

原題は『The Truths We Hold: An American Journey』。「人々に行動を促すきっかけとして、そして闘いは真実を語ることに始まり、真実を語ることに終わらなければならないという私の信念から生まれた」と綴られているように、本書には繰りかえしTruths「真実」という言葉が出てくる。真実を語ることで社会は前進していくと考える著者の強い意志の表れだろう。

 

語らなくてはならない真実は数えきれないほどある。たとえば、アメリカ国内の刑務所で起きている問題について。収監者に女性が占める割合が増えていること、その大半が母親であり、大多数が暴力による心的外傷を抱えているにもかかわらず治療が施されていないこと。人種差別、性差別、同性愛者やトランスジェンダーの人たちへの偏見、反ユダヤ主義。給与は40年間も上がっていないのに医療費、教育費、住居費が高騰しているという事実。また、警察の蛮行や人びとの利益を吸いつくす強欲な企業、中毒性のある麻薬鎮痛薬、営利目的の大学について「私たちは真実を語らなければならない」と著者は断言する。

 

上院議員になった初年度に著者が注力した問題のひとつが、アメリカの保釈金制度だ。地方検事だった著者は、保釈金立替業者の事務所へ入っていく被告の家族の姿を毎日のように見てきた。彼らの多くは貧しさのため保釈金が払えず、持ち物を質に入れ、友人や教会に助けを求めていたのだ。なかには仕事や家族のもとへ戻りたい一心で、たとえ弁護の余地があっても有罪を認めてしまう人もいたという。

 

人種に関する偏見とも真正面に戦わなくてはならない。スマートフォンの普及により、最近ではアメリカでの警察官による残虐行為が世界中に知られるようになった。もはや見て見ぬふりはできない状況だ。問題の根本は、黒人への潜在的偏見だけでなく潜在的偏見が制度に染みついていることにあるとの指摘は興味深い。改革のために著者は、まず偏見という真実を受けいれること、そのうえで実際にそれを変えるための政策や慣行を打ち出すべきだと語る。と同時に、重要なのが信頼関係を築くことだという。

 

「こうした状況にあるとき、互いの信頼関係ほど重要な対抗策はない。あなたは人を信頼し、人に信頼されなければならない。信頼関係を築くのに最も大切なのは、真実を話すことである。大事なのは何を言うか、だ。言葉に込めた思いだ。そして、それによってほかの人々に何が伝わるかだ。」

 

改革はときに、外部からの圧力で達成されることもある。州司法長官だった頃、全国で初めて警察官にボディカメラの装着を義務づけたのも著者だった。これを実行できたのは、黒人少年のトレイボン・マーティンが白人警官に射殺された事件に端を発するブラック・ライブス・マター運動が強烈なプレッシャーとして働いたからだという。

 

「もっとも困難な問題は、それについて素直に話さないかぎり、そしてまた難しい対話をいとわずに事実が明らかにすることを進んで受け入れないかぎり、解決できない。」

 

という著者の言葉は、けっしてアメリカに限ったことではないだろう。私たち日本人にも重く強く響く台詞だ。

 

『私たちの真実 アメリカン・ジャーニー』
カマラ・ハリス/著 藤田美菜子・安藤貴子/訳

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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