たくさんの喜びと悲しみから「ありがとう」を学ぶ。天使の女の子が最後に見つけた答えとは?
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BW_machida

2021/12/16

 

『ありがとう が しりたくて』 菊田まりこ/著

 

はるか遠くの空まで聞こえてきた「ありがとう」の意味を知るために、地上へと舞い降りた小さな天使が主人公。お母さんのお腹から普通の女の子に生まれ変わった天使は、絵本を読んでもらい、誕生日を祝ってもらい、お友達と遊んだりたくさんの人の前でバイオリンを弾いたりしながら歳を重ねてゆく。「ありがとうって、なあに?」と問いかけながら、何気ない日常のひと場面を重ねてゆく、心を温めてくれる絵本だ。

 

お母さんからたくさんの愛情を与えてもらった女の子は「なにかを あたえてもらえる ことって、しあわせ」とありがとうの思いをひとつ知る。そして植物に水をあげて、お年寄りに手を貸し、食べ物を分け合うことで「なにかを あたえてあげられる」ことも、ありがとうの気持ちなのだと学ぶのだ。結婚し、子どもを育て、家族が作られていく場面はとくに作者の愛情が感じられた。

 

普段はどうしても忘れがちだけど、私たちは誰もがたくさんの「ありがとう」の言葉を贈ったり受け取ったりして生きている。その事実を大切な人との別れの後でついに実感する。絵本の女の子もまた、愛する人を失った悲しみのなかで「ありがとう」をもっとたくさん伝えておけばよかったと後悔し、涙する。しかし作者は、そんな女の子を「『ありがとう』は いろんな カベを こえてゆく」と諭す。その気持ちはきっと伝わっている、との語りかけに女の子は別離という悲しみのなかにも「ありがとう」を見つけ出す。

 

心洗われる優しい物語にも引き込まれるが、余白をたっぷり使ったイラストにも心を掴まれた。星に願ったり、気持ちよさそうに楽器を弾いたり、満足げに子どもを腕に抱いていたりと、どのページの女の子も表情がとてもかわいらしいのだ。

 

絵本の最後に女の子は「で、ありがとうはわかったかのう?」と神様に問いかけられる。女の子の答えは、ぜひ本書を手に取って確認してみてほしい。「ありがとう」という言葉は、けっして雑に扱っていい言葉ではない。そのことを私はこの絵本であらためて教えられた。「ありがとう」の本当の意味を理解し、その効果を知っているということは「魔法の呪文をひとつ知っているのと同じことなのではないかな」と語る著者の言葉が胸に響いた。

 

『ありがとう が しりたくて』
菊田まりこ/著

馬場紀衣(ばばいおり)

馬場紀衣(ばばいおり)

文筆家。ライター。東京都出身。4歳からバレエを習い始め、12歳で単身留学。国内外の大学で哲学、心理学、宗教学といった学問を横断し、帰国。現在は、本やアートを題材にしたコラムやレビューを執筆している。舞踊、演劇、すべての身体表現を愛するライターでもある。
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