『その殺人、本格ミステリに仕立てます。』著者新刊エッセイ 片岡翔
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BW_machida

2022/08/01

人を殺すことばかりを考えている。

 

映画でもドラマでも小説でも、掴みが大切だと思っている。スリラーやミステリーだと、できるだけ早く事件を起こそうと試みる。序盤で興味を引けるかどうかが勝負だ。

 

コロナ禍になり、カフェの隅っこでリモート打ち合わせをしていた時のこと。小声を心掛けていたのに、つい普通の口調で「もっと早く殺した方がいいですよ」と言ってしまった。

 

隣に座っていた女性が目の端で僕を見た。
殺し屋だと思われた……。さすがにそこまで自意識過剰ではないが、下品で野蛮な男だ、くらいには思われただろう。

 

また別の日、電車内でスマホにメモした殺害方法を見ていた時、誤って音声読み上げボタンを押してしまった。

 

「ギロチンで首を切る」

 

隣に座っていた婦人がぴくりと動き、僅かに身を離した。

 

いくらなんでもベタすぎるわよ、などと思ってくれるならまだいいが、いつでも逃げられる体勢をとられたに違いない。

 

誰が、いつ、どこで、どうやって殺すのか、殺されるのか。自分がそんなことばかりを考えていることに気がついた。散歩している時も、お昼を食べている時も。幼稚園のきりん組の教室から出てくる娘を待っている時にさえ考えている。

 

ヤバいなと思いつつ、そんな生業に素晴らしさを感じずにはいられない。こんなに楽しい仕事が他にあるだろうか。

 

IKEAに買い物に行った時のこと。ミステリ小説の舞台となる「九角形の館」の間取り図を描かなくてはならず、フードコートでミートボールを摘みながら考えていた。

 

ひそひそ声が聞こえて振り向くと、小学生の姉妹に間取り図を覗かれていた。僕が九角形の館に、どうIKEAの家具を配置するか、悩んでいると思ったのだろう。

 

絶海の孤島に建つ奇怪な館に、カラフルなIKEAの家具が並んでいる。そこでくつろぐ姉妹を想像すると、殺人鬼は退散した。やっぱり、こんなに楽しい仕事は他に無い。

 

『その殺人、本格ミステリに仕立てます。』
片岡翔/著

 

【あらすじ】

音更風゛(おとふけぶう)は、ミステリ作家の一家にメイドとして就職した。だが一族は不仲で、兄妹間で殺人計画さえ持ち上がる始末。これを止めるべく、風゛は計画を請け負った男・豺と「フェイク殺人計画」を練るのだが、二人を嘲笑うかのように予想外の人物が殺されて……。※風は濁音が入ります。

 

片岡翔(かたおか・しょう)
1982年、北海道生まれ。映画監督、脚本家、小説家。手がけた作品に映画『この子は邪悪』(監督・脚本)、『線は、僕を描く』『ノイズ』(共に脚本)などがある。

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