『探偵は田園をゆく』著者新刊エッセイ 深町秋生
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ryomiyagi

2023/03/07

深町秋生は山形の恥

 

探偵を自分の地元山形で活躍させたらどうだろう。

 

コンクリートジャングルでもなく、きらびやかなネオン街でもない。フィリップ・マーロウは「卑しい街をゆく孤高の騎士」だったが、「卑しい田舎をゆく孤高の騎士」にしたら、わりと書かれ尽くされた探偵小説の世界でも、けっこう斬新な作品になるのではと思ったのだ。

 

自分がもっとも好きな作品に、ジョー・R・ランズデールの「ハップ&レナード」シリーズがある。後にテレビドラマにもなったテキサスの冒険小説で、無職の男ふたりが田舎で大暴れする話だ。ユーモアがふんだんに盛り込まれながらも、都会とは異なるジットリとした“悪魔のいけにえ”的な怖さが描かれている。あの暗さを書きたかった。

 

山形はいいところだ。メシも酒もうまい。なにより治安がいい。ややこしい事件はあまり起きないので、県警の検挙率は全国トップクラスだ。人はまあまあ穏やかで、芋煮とラーメンのことになると目の色を変えるが、だいたいシャイで人も悪くはない。農村部は鍵をかける習慣が今でもないため、県警が口をすっぱくして「家に鍵をかけよう」と啓蒙活動をやるほどだ。大変のどかな土地であって、探偵が割って入るような隙などなさそうに見える。

 

しかし、長く住んでいれば、表面化していないだけの問題がいくつも横たわっている。濃密すぎる人間関係のおかげでマルチ商法がはびこったり、ある一族だけにカネと権力が集中していたり、せっかくの移住者を安いカネで使い捨てるといった暗い実態も見えてくる。

 

地方のしみったれた問題が描かれつつ、シングルマザーの元刑事の探偵と相棒のヤンキー兄ちゃんがカラッと大暴れする長編だ。地元を手放しで褒めたたえたりはしない。「深町秋生は山形の恥だべ」といわれる覚悟で書いた。ご期待ください。

 

『探偵は田園をゆく』
深町秋生/著

 

【あらすじ】

椎名留美は元警官。山形市に娘と二人で暮らし、探偵業を営んでいる。ある日、風俗の送迎ドライバーの仕事を通じて知り合ったホテル従業員から、息子の捜索を依頼される。遺留品を調べた留美は一人の女に辿り着いた。彼女が手がかりを握っているのだろうか?

 

ふかまち・あきお
1975年山形県生まれ。2004年『果てしなき渇き』で第3回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞してデビュー。「シングルマザー探偵の事件日誌」「ヘルドッグス」など人気シリーズ多数。

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