海外ジャーナリスト注目メディア4選・最新版
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ryomiyagi

2020/06/18

インターネットやソーシャル・メディアの普及によって情報源の選択肢が増えた一方、同じ意見を持つ者同士でコミュニティが形成され、情報の「タコツボ化」が進行している。バイアスをかけず事実を見極めるために、NYタイムズ元東京支局長が実際に利用しているメディアを4つご紹介します。

 

※本稿は、マーティン・ファクラー『フェイクニュース時代を生き抜く データ・リテラシー』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

 

 

■ネットが促進した「タコツボ化」

 

私が初めて日本にやってきたのは、慶應義塾大学で日本語を学び始めた1988年のことだ。ジャーナリストの仕事をするようになってからは、ブルームバーグやAP通信、ウォール・ストリート・ジャーナルやNYタイムズで記者として働き、日本でも取材を行なってきた。したがって日本滞在歴は延べ20年にわたる。

 

フリーランスのジャーナリストになった今も、NYタイムズをはじめとする英語メディア以外に、日本語の媒体にも目を通す。しかし、日本語でも英語でも一つだけの情報源に頼ってはいけないと思う。

 

情報リテラシーを磨き、自分の力で判断を下すためには、基本的に3つか4つのメディアに目を通して比較する必要がある。たとえば朝日新聞や産経新聞、東洋経済や日本版ウォール・ストリート・ジャーナルを併読して読み比べてみるのだ。

 

こういう作業をやろうとすると、最初は慣れないので時間がかかる。1カ月辛抱して読み比べてみれば、「ここがニュースの焦点ではないか」とポイントが見えてくるようになる。データ・リテラシーの腕は、自分で地道に磨くしかない。

 

インターネットが生まれた90年代には「ネットで全世界がつながる」という夢があった。しかし結局何が起きたのか。世界が一つになるどころか、まるで無数の民族に分裂しているかのように、タコツボ化が進んでしまった。

 

ネットができる前の時代は、みんな朝起きたら新聞を開き、仕事が終わったあとは夜のテレビニュースを見て同じストーリーを共有したものだ。結果、人々が得る情報はある程度共通していた。

 

ネットの登場によって、皆が共有する情報やストーリーはなくなってしまった。何が真実かも分からなくなり、複数の真実が存在して互いに争っているという複雑な世の中となった。

 

トランプ支持者は「オレたちこそ真実だ」と言って譲らず、自分たちと異なるモノの見方をするNYタイムズやCNNを、「あいつらはウソを言っている」「フェイクニュースメディアだ」と否定する。

 

そういう仲間同士の環境にどっぷり漬かっていると、偏った世界観が当たり前のように体に染みついてしまうのだ。

 

人間は社会の中で生きる動物だから、自分のまわりにいる仲間が何についてどう思っているのかを常に気にするものだ。インターネットやソーシャル・メディアを見ていると、人々が意見の似た者同士で集ってコミュニティ化していることを顕著に感じる。自分と同じ意見の人たちばかりと情報交換をする。互いに確認し合うことで「私の考えは正しいのだな」と安心する。

 

だが、ソーシャル・メディアのコミュニティに身を任せ、ただ流されるだけになるのは良くない。彼らの意見やモノの見方にバイアスがかかっていたり、バランスを欠いた極論であったりすれば、それに汚染されてしまう。

 

そうならないためには、幅広く4~5カ所の情報源に目を配りながら、さまざまなメディアに目を通すことが不可欠だ。

 

ネットがなかった時代は、朝日新聞や読売新聞、毎日新聞などの大手紙くらいしか一般読者には選択肢がなかった。今は昔と比べて、情報源は100倍もある。また、スマートフォンはじめ媒体も手軽で便利になり、いつでもどこでも情報を得られるようになった。

 

選択肢が増え可能性も広がった分、幅広く情報を得て判断力を磨く努力も求められる。もちろん紙にこだわらなくていいので、新聞をオールド・メディアとしてバカにすることなく複数に目を通し、雑誌やソーシャル・メディア等も併読する努力を我慢強く続けてほしい。

 

■無料メディア・アクシオスを使い倒せ

 

私が目を通す情報源は、このところ変わりつつある。

 

NYタイムズは世界中のニュースをくまなくカバーしながら、中身の濃い調査報道に果敢に挑んでいる。そうしたニュースを読むのは非常に有意義なのだが、アメリカ国内の報道についてはあまりに政治色が濃くなりすぎている。トランプに対抗するための主張が強すぎるのだ。

 

私が知りたいのは反トランプのアジェンダではない。ただ純粋に新しい情報を得たいため、最近はアクシオスをよく読むようにしている。

 

アメリカ国内の報道については、NYタイムズよりもアクシオスのほうがキャンペーン・ジャーナリズムが少なく、幅広く新情報を得やすい。

 

アクシオスは2017年1月に立ち上げられた新しいネットメディアで、広告による収入でビジネスを成り立たせているため、すべての記事が無料で読める。スマートフォン時代を強く意識した簡潔な記事の書き方をしているのもいい。

 

生まれて間もないメディアだというのに、アクシオスはトランプ政権やホワイトハウスに関するすごいスクープを次々と連発している。英語ニュースをスマートフォンで読んでいる日本の読者には、アクシオスをおすすめする。

 

2013年12月に設立されたThe Information(ザ・インフォメーション)も、アクシオスの次に毎日アクセスする。ザ・インフォメーションは、メディア産業とIT産業について高品質な記事を出すオンラインの有料メディアだ。

 

2007年設立のProPublica(プロパブリカ)は、調査報道を専門とする。オンラインメディアとしては初めてピューリッツァー賞を受賞するなど、評価も高い。

 

ただしプロパブリカは長い文章で書かれた調査報道を掲載するため、日常的に気軽には読みづらい。ここで発表される記事は、時間が取れるときにじっくり熟読するといいと思う。

 

ちなみに、日本のメディアで私が毎日読んでいる一つは、日本経済新聞である。前述したように、他の新聞社と違ってスマートフォンに特化した読みやすい記事を作ってくれているからである。また、全国紙の中で最も政治色が薄いという点も購読理由の一つだ。

 

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