東京五輪「マラソン」テロ対策にランニングポリスとBEEMS
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『写真:青木紘二/アフロ』

 

いま、ヨーロッパを中心に世界中でテロが頻発している。その現場は、駅、空港、ナイトクラブ、飲食店、花火大会の会場など、警備が比較的緩やかで不特定多数の人が集う場所、いわゆる「ソフトターゲット」と呼ばれる場所が多い。

 

一見、平和な日本に暮らす私たちも、テロと決して無縁ではない。私たちは、いま、この瞬間に日本でテロが起きても不思議ではない時代を生きている。そして「Xデー」を防ぐべく、首都・東京の治安を守る警視庁では徹底したテロ対策が進められている。

 

特に狙われる可能性が高いのは、2020年の東京オリンピックなのは言うまでもない。オリンピックの花形のマラソンの警備はどのように行われているのだろうか。

 

「東京マラソンは東京オリンピック警備の試金石となる。抜かりない警備を展開していただきたい」

 

2017年2月10日。警視庁本部で開かれた警備公安部門会議で警視庁副総監の笠原俊彦警視監(1984年警察庁入庁)が参加者を見渡し訓示した。

 

東京マラソンは、参加者・応援者計160万人以上が新宿や銀座など都心の沿道を埋め尽くすビッグスポーツイベントだ。警視庁は2月26日の開催1か月前から空前の警備態勢で臨むべく、準備を始めていた。

 

ここで、関係者への取材などに基づいてその中身を紹介しよう。

 

2017年の大会はゴールが江東区の東京ビッグサイトから千代田区の東京駅前広場に変更された。皇居や国会議事堂など、都心の重要防護施設から目と鼻の先にある場所だ。

 

警視庁は民間の協力を得て約300台の防犯カメラを使い、不審者や不審物を警戒監視。ゴール地点周辺の観戦用特設スタンドでは、入場前に金属探知検査と手荷物検査を行っている。

 

特に警戒を強めたのは「車両突入テロ」に対してだった。イスラム国・ISはインターネット上で車両テロを呼びかけているが、2016年7月のフランス・ニース、2016年12月のドイツ・ベルリンでは車が「凶器」となり群衆に突っ込み、多数の死傷者が出ていた。

 

警視庁幹部は語気を強めて言う。

 

「突入のみならず、車両に爆弾を積み爆発させられたらさらに甚大な被害が出る。警視庁の威信にかけても絶対に阻止しなければならない」

 

こうした懸念を受けて警視庁は、ゴール地点となる東京駅前、新宿、銀座、浅草などの主要な交差点に機動隊のバスなど警察車両約100台を壁のように並べて防護壁を構築。

 

SATと並ぶ警視庁警備部の精鋭部隊「ERT・緊急時初動対応部隊」も現場にスタンバイ。テロリストを確実に狙撃する態勢を組んだのだ。

 

一方、2016年の大会から導入したハイテク警備のひとつは「ランニングポリス」だ。脚に自信のある警視庁機動隊員から94人が選抜され、帽子に搭載したウェアラブルカメラで、沿道の様子をリアルタイムで警視庁の指揮本部に送ることができる。

 

さらにランニングポリスの腕時計型端末にはGPS(衛星利用測位システム)が備えられていて、警察官の位置情報を本部で把握、指示することも可能になっている。

 

そして、ランニングポリスに加えて今回登場したのが自転車部隊「BEEMS(ビームス)」だ。装備はランニングポリスと同様で、10台がランナーたちと並走し見守る。

 

さらにドローンによる空からの襲撃に備えて「迎撃型ドローン部隊」を配備したほか、東京駅前のゴール付近には「バルーン型カメラ」が上空75メートルから地上の不審者をマークする。

 

警視庁は2016年にヨーロッパでテロの嵐が吹き荒れた情勢を加味して、まさに細大漏らさぬ態勢で臨んだのである。

 

大会当日、新宿都庁前の号砲でスタートした東京マラソンは約3万6000人のランナーが参加。警視庁の空前の警備態勢が功を奏し、幸いなことにテロが起きることはなかった――。

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