誰がトランプを支持しているのか?大ベストセラーで読み解く(7)
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トランプ大統領の主要な支持層と言われる、白人貧困層。「ヒルビリー」とも言われる彼らの実態について書かれた本が、アメリカで売れ続けています。その邦訳版の刊行にさきがけ、本文の一部を少しずつ紹介していきます。

 

 

子どもは勉強しない。親も子どもに勉強をさせない。だから、子どもの成績は悪い。親が子どもを叱りつけることもあるが、平和で静かな環境を整えることで、成績が上がるよう協力することはまずありえない。成績がトップクラスの一番賢い子たちですら、仮に家庭内の戦場で生き残ることができたとしても、進学するのはせいぜいが自宅近くのカレッジだ。

 

「ノートルダム大学に行こうが、どこに行こうが、かまいやしない」というのが親の考えだ。「コミュニティカレッジで、立派な教育が安く受けられるんだから」。皮肉なのは、私たちのような貧困層にとっては、実際には奨学金が受けられるノートルダム大学に行ったほうが、安あがりで立派な教育が受けられるということだ。

 

本来ならば仕事をしていなければならない年齢なのに、働かない。仕事に就くこともあるが、長くは続かない。遅刻したり、商品を盗んでeBay(オンライン・マーケットプレイス)で売り飛ばしたり、息がアルコール臭いと客からクレームをつけられたり、勤務時間中に30分のトイレ休憩を5回もとったりして、クビになる。一生懸命働くことの大切さは口にするのに、実際には仕事に就かず、それをフェアでないと考える何かのせいにする。オバマが炭鉱を閉鎖したせいだとか、仕事をすべて中国に奪われたせいだとか。自分自身に嘘をついて、きちんと働いていない気まずさをごかまそうとしているのだ。そうやって、いま見ている現実世界と、自分たちが信じる価値とのあいだの断絶を埋めようとする。

 

子どもには責任を持てと言っているくせに、自分たちはやるべきことをやらない。たとえばこんな感じだ。私はずっと、ジャーマンシェパードの子犬を飼うのが夢だった。それを知った母が、どこからか1匹見つけてきた。うちで飼う4匹目の犬だった。にもかかわらず、私は犬のしつけのことを何も知らなかった。

 

結局どの犬も、数年で警察や家族の友だちに譲りわたされ、家には1匹も残らなかった。私は4匹目の犬にさよならをすると、心を閉ざすようになった。何に対してもあまり愛着を感じないほうがいい、と思うようになったのだ。

 

なんとかその子を助けてあげたいと思った祖母は、児童相談所に連絡して、その子の母親のことを伝えたが、何もしてもらえなかった。だから祖母は、私の甥のおむつでその子の世話をし、いつも近所に目を配っては、その〝ちっちゃいお友だち〟の姿を探していた。

 

姉の友だちは、小さなメゾネットに、生活保護の女王とでも呼べるような母親と住んでいた。7人きょうだいで、ほとんどは同じ父親の子だった。それは(残念なことに)とてもめずらしいことだった。母親は仕事に就いたことがなく、祖母の言葉を借りるなら「繁殖にしか」関心を示していないようだった。子どもたちには、まっとうな人生を送るチャンスはまったくなかった。娘の一人は虐待男と一緒になって、タバコを買える年齢になる前に、子どもを産んだ。一番上の息子は、高校を卒業してまもなく、ドラッグの過剰摂取で捕まった。

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ヒルビリー・エレジー

ヒルビリー・エレジーアメリカの繁栄から取り残された白人たち

J・D・ヴァンス/著 関根光宏/訳 山田文/訳

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