親子が一緒にお風呂に入ると犯罪沙汰に!?フランスの独特すぎる「裸事情」
ピックアップ

 

私の夫(フランス人)は父親の裸を見たことは一度もなく、母親の下着姿や水着姿を見た記憶がかすかにあるという程度らしい。「通信販売のカタログの下着のページを見ながら、女の人ってこういう感じなのかなあ」と想像していただけだったという。

 

そこでフランス人の友人たちに「子どもと一緒にお風呂に入ったことある?」と聞いてみた。

 

ほとんどが、しばらく考えてから「うん、あるかも。でも、急いでいたからササーッと一緒に洗っちゃったっていう感じかな」と答える。長い間、湯水に一緒に浸かっていたというわけではないのである。

 

「日本では、親子でお風呂に入るのは普通なんだよ、私だって小学校の低学年まで父親とお風呂入っていたもの」と言うと、皆、一様に声をひそめ、あたりを憚るかのように言う。

 

「シーッ! 日本ではそれが伝統ならそれでいいの。悪いって言ってるわけじゃないのよ。でも、ここでは、そういうことはあんまり大きな声で言うことじゃないのよ」と。

 

日本人の子どもが学校でポロっと「お母さんとお風呂に入って」と言ったところ、友達が親に伝え、それから教師、校長の耳に入り、警察を巻き込んで「ペドフィリア(小児性愛)」の疑いをかけられ大騒ぎになったという話もある。それぐらい、「親とお風呂に入る」というのは「異常」なことなのである。

 

とくに父親が娘と一緒にお風呂に入るとなると、たとえ娘が3歳であろうと要注意である。それを理由に離婚を迫られた、離婚の訴訟のときに持ち出されて不利になった、ということも私は実際聞いたことがある。

 

逆に、日本の友人たちに「なぜ、フランスでは親子でお風呂に入らないの?」と聞かれれば、返答に困る。日本のような洗い場がないというのも理由の一つだが、ほんとうの理由はまた別のようだ。

 

フランスでも中世期は混浴の公衆浴場があり、身体を洗うだけではなく飲み食いまでしていた。しかし、ペストが流行った14世紀以来、「病は湯水から感染する」と信じられたため、人々は湯水で身体を洗うことを極力避けるようになった。その代わり、粉でこすって垢を落とす技術や臭い消しのための香水術が発達した。現在でも日本人のように毎晩、長々と湯船に浸かる人は珍しく、ほとんどの人は朝、シャワーを浴びるだけである。
次に、裸の禁忌というものがある。

 

聖書の創世記には、アダムとイヴが蛇の誘惑に負けて知恵の実を食べたことで、自分たちが裸であることに羞恥心を抱き、性器を隠すようになったという記述がある。それによって、「裸は恥ずべきだ」という考えが広まる。西洋絵画にはヌードが溢れているが、19世紀後半まではタイトルはすべてギリシャ神話の神々や歴史上の人物であって実在の人間ではない。つまり、キリスト教が西欧社会に浸透して以来、ギリシャ神話の神々を描くあるいは歴史上の出来事を描くという言い訳がなければ、ヌードを描くことはできなかったのである。

 

フランスで最初に描かれた人間女性のヌードは、マネの『草上の昼食』(1862~63年)と『オランピア』(1863年)だ。当然、公展には落選し、落選者展でも「卑猥」「ポルノ」「公序良俗に反する」としてスキャンダルになった。「羞恥の世紀」といわれるほど宗教的な性的抑圧が強かった19世紀は、自分の裸を鏡に映して見ることすら忌まわしいこととされていた。当時の育ちの良い女の子というのは、下着をつけたまま身体を洗い、自分の身体を見ないように目をつぶって着替えるように教えられたという。

 

それから1世紀半たったものの、いまだに、親が子どもに自分の裸を見せることはきわめて少ない。だから、フランスの子どもたちにとって大人の裸といったら、広告写真のモデルのような完璧なボディなのかもしれない。そう考えると、フランスの子どもたちにとって、大人の裸体というのは、絵本などを使ってきちんと説明してもらわないとわからない、「実体のないもの」だとも思える。

 

日本の家族風呂文化は、性教育と名こそついていないものの、子どもたちが自然に「どうしてお父さんにはおちんちんがあるのに、お母さんにはないの?」「どうしてお母さんのお腹には傷跡があるの?」などと聞くことができる。

 

男女の身体の違いや、妊娠や出産でどのように身体が変化するかを知るための、良い機会なのではないかとつくづく思うのだ。

 

マネの『草上の昼食』

 

 

以上、『フランス人の性 なぜ「#MeToo」への反対が起きたのか』(光文社新書)を一部改変して掲載しました。

関連記事

この記事の書籍

フランス人の性

フランス人の性なぜ「#Me Too」への反対が起きたのか

プラド夏樹(ぷらどなつき)

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitterで「本がすき」を

この記事の書籍

フランス人の性

フランス人の性なぜ「#Me Too」への反対が起きたのか

プラド夏樹(ぷらどなつき)