14年ぶりのセレブパーティ【第15回】
辛酸なめ子『新・人間関係のルール』

ryomiyagi

2019/11/14

衝撃のチャリティーパーティ

 

2005年、30代になったばかりの私は、緊張しながらそのセレブなチャリティーパーティに参列しました。「子供地球基金ファンドレイジングパーティ」という、収益が世界中の子どもたちのための支援活動に寄付されるという主旨の催し。

 

「子供地球基金」は1988年に創立され、病気や戦争、災害などで心に傷を負った世界中の子どもたちへ画材や絵本を寄付したり、アートワークショップを開催しているという素晴らしい団体で、代表の鳥居晴美さんは2018年のノーベル平和賞の候補(約30人のうちの1人)にもなられました。

 

一流ブランドや有名人が活動を支援していて、チャリティーパーティもかなり華やかです。

 

2005年に会場のグランドハイアットのグランドボールルームに伺った時は、日本にこんな貴族の方々がいらっしゃるとは……と衝撃を受けました。

 

完璧に手入れされた背中を露出したドレスのマダムや、宝石をきらめかせた上品な白髪の老婦人、上質な絹の着物をまとった若い女性、ドレスに毛皮を羽織った婦人、タキシードにブラックタイの紳士たち……。

 

「外苑前のヨガのスタジオ、行かれたことあります?」
「外苑前は遠いですね。もっと白金あたりにできればいいのに……」

 

といった会話に衝撃を受けました。

 

たぶん皆さん港区からほとんど出ないライフスタイルなのでしょう。

 

その時私は原宿で買った1万5000円くらいのワンピースを着用。髪型だけはヘアサロンでセットしていましたが、それでも格差を感じたものです。会場に飾られている世界各国の子どもたちの絵が心の癒しで、自分の身につけているものの中で最も高価な歯の詰め物(20金+プラチナ)に意識を集中したものです。

 

着物のマダムに「あなた、本当はもっと笑いたいんでしょ」と励まされたり、会話を終わらすには「どうぞ、さめないうちに」と料理に意識を向けさせるという話術を学んだり、数時間の間に貴重な体験をさせていただきました。

 

同じパーティに再び参加

 

それから14年ほどの月日が経ち、その間も素晴らしい慈善活動を続けていた鳥居さんのお計らいで、同じパーティに参加する機会に恵まれました。

 

「子供地球基金ファンドレイジングディナー 2019」で、会場は同しグランドハイアットです。

 

その空間で、前回参加してから今まで、上流階級に憧れながらも努力していなかった自分を痛切に感じ、反省することになりました。

 

というか前回よりもクラスダウンしてしまったかもしれません……。

 

まだ開場する前で、ボールルームの前の空間には、14年前と変わらぬ華やかな富裕層の方々が集っていました。

 

ロングドレスで肩を出した美女たちに、雅な和服の女性、タキシードの紳士たち……。鹿鳴館にタイムスリップしたかと思うほどでした。

 

そして私は瞬時に自分の場違いな出で立ちを自覚しました。これはいかん、と……。

 

その日適当な服がクローゼットの中から見つからず、とりあえず新しめのワンピースを着用。茶色に花柄のデザインですが、とにかく生地感がペナペナでプチプラオーラが半端ないです。他の鹿鳴館セレブの方々のドレスは10メートル先からでも高級感が伝わりますが、その逆で化学的な光沢感が遠くからモロバレです。

 

時計を見たら開場まで20分……そしてここはアパレルショップも多数入っている六本木ヒルズ。行くしかない、ということで決心し、ヒルズ内を走りました。

 

向かった先は……困った時のZARA!

 

ちなみに最初着ていたワンピースもZARAだったのでZARAからZARAへのチェンジです。

 

ただ一応ZARAの中でも高そうに見える生地のグレー系のワンピースを選び、店員さんに「着て帰ります」と告げて試着室の中で数分間で早着替え。

 

若干汗ばみましたがドアオープン5分前には、ボールルームに到着し何事もなかったように着席できました。

 

今回服2着で1万6000円くらいで、偶然前回と同じ位の予算となりました。(1着で考えると半額にランクダウンした説もありますが……)

 

おかしなテンションに……

 

早着替えを達成した満足感で、パーティの間、おかしなテンションになってしまいました。冷静さがなくなって、円形テーブルの自分の側ではない水やバターを取ってしまい、足りなくなって混乱が生まれたり、マナーもやばかったです。

 

ステージでは主催者の挨拶とグランドハイアット総支配人の乾杯の挨拶に続き、ヴァイオリンユニットTSUKEMEN(メンバーにさだまさし氏の子息というセレブが)のライブ、マリンバや少年ピアニストによるピアノ演奏、コントーショニスト(軟体芸人)のパフォーマンスなどが行われ、優雅な時が過ぎていきました。

 

料理はホタテとズワイガニとタイガープランのタルタルにキャビアがあえられた一品や、栗とバタースカッシュのリゾットにフォアグラのソテー、牛フィレ肉のローストなど……。

 

富裕そうな方々は肉を好まれ生命力を高めているのかもしれません。そして前回は席を立って果敢に人に話しかけたりして社交していたのですが、年齢感のせいか立ち上がる体力がなくて同じ席に座ったまま……右隣の紳士と会話したくらいで、「義両親が今イタリア旅行中で……」という会話の断片からも瞬時にセレブ感が伝搬してきて、こちらから提供する話題が思い浮かびませんでした。

 

陰謀論や天皇家の噂で盛り上がった友人のホームパーティが恋しいですが、セレブパーティではそれなりの格調高い話題を持っていないと厳しいです。前日までに和の文化をたしなんだり人脈を作ったり、準備が必要でした。同じテーブルに日本舞踊関係の和服の超美人がいらして、こんな人生だったら……と思いを馳せました。ちなみに応募していたラッフル(抽選)には外れてしまいました。

 

オークションにプチ参加

 

開き直ってパーティを楽しむしかないと思い、後半のオークションにプチ参加。

 

出品されたのはワイングラス、モエ・エ・シャンドンのシャンパン、ブランドのアクセサリー、ブルガリレストランのお食事券、FENDIのバッグ、香港のレストランでのディナー券、千住博画伯の絵画、西陣織の帯、ショパールのペンダント、ゴルフアイアンと青木功サイン入りグッズ、グランドハイアット宿泊とダイニングとエステ券、などかなりゴージャスなラインナップです。

 

オークションの司会の男性がかなりプロで

 

「8万円、8万円、8万円、もう一声!」
「26万円、26万円、もうやめちゃう?」

 

などと会場を煽って乗せるのがうまいです。

 

生々しいのが美容皮膚科の10万円分施術チケットでマダムが競り合っていました。次々といい値段で落札。そのお金がチャリティに回されます。

 

そのオークションでやってみて楽しかったのが、20万、30万と値上がりする品物に対して2万円くらいの時にさっと手を挙げて下ろす、という行為です。

 

絶対その額で落とされることはないし(そうなったら破格すぎるので)、一瞬だけでもオークションに参加したい人におすすめです。何度かパッと上げて下ろす行為をくり返し、司会者に見つけてもらったりして承認欲求とスリル感が得られました。

 

もう自分は、オークションに参加したひとかどのセレブみたいな気分です。ひとりでテンションが上がりましたが、周りの人々の目はちょっと冷たかったかもしれません……。

 

セレブなパーティでは外見や、一挙一動にふだんの生き方が出てしまいます。

 

次回こそは……とリベンジを心に誓いましたが、現状より下がらないよう気を付けたいです。

 

今月の教訓
セレブパーティは人よりも自分の現実がよく見えます

 

新・人間関係のルール

辛酸なめ子(しんさんなめこ)

1974年東京都生まれ。埼玉県育ち。漫画家、コラムニスト。女子学院中学校・高等学校を経て、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。恋愛からアイドル・スピリチュアルまで幅広く執筆。著書に『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)、『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)など多数。
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