コロナで変わった人間関係【第20回】
辛酸なめ子『新・人間関係のルール』

ryomiyagi

2020/04/08

ソーシャルディスタンス

 

ここ数ヶ月で、こんなに人と人とのコミュニケーションが変化してしまうとは……。

 

新型コロナウイルスの世界的なパンデミックで、「ソーシャルディスタンス」という言葉も生まれ、物理的にも距離を取ることが推奨されています。

 

イタリアでは、キスやハグの挨拶を禁止する法令が出され、アメリカでは握手をやめて肘と肘を打ち合わせたり、足で足を触ったりするフットタッチという挨拶が編み出されたとか。

 

そこまでしてタッチしなくても、と思いますが、日本式のお辞儀は比較的安全だということで、欧米でも注目されているようです。

 

握手がないと人間関係が円滑に進まないというのが欧米人の考えでしたが、「今後も握手するつもりだ」と言っていたイギリスのジョンソン首相が陽性になってしまった今、考えを改めなくてはならないようです。

 

コロナ対策がスピーディだった台湾では、握手代わりに「拱手(きょうしゅ)の礼」という、中国の時代劇に出てくるこぶしを手で包んでお辞儀する方法が広まっているそうで、世界中で挨拶のしかたも変化してしまいました。

 

パンデミックがおさまったら、乗り越えた感動と共にハグや握手の風習が帰ってくるのでしょうか。

 

地球の浄化か、人類への試練か

 

また、大きな変化といえば、リア充ライフの封印ということでしょうか。海外旅行したり、飲み歩いたり、ライブやコンサートに行ったり、パーティに出たり、カラオケで騒いだり、合コンしたり、クラブで遊んだり、といった享楽的で楽しい行為がほとんどできなくなってしまいました。

 

この期に及んで遊び歩いている人は非難の目で見られるという、「一億総風紀委員」状態に。ちょっと前までパーティに出たりして多額のギャラをもらっていたインフルエンサーは、しばらくおとなしくしているしかなさそうです。

 

今考えると「インフルエンサー」という業種がここ数年やたらもてはやされたのも、何かの予兆だったのかもしれません。でも、全世界の人が一時的に皆ストイックになって身を慎むのは、これまでになかったことで、地球の浄化にはなっていそうです。

 

経済活動が止まったことで、ヴェネチアの水路の水質がきれいになったり、大気汚染で空が真っ白だったインドに青空が戻ったり、星空がよく見えるようになった、という話も。お花見の宴会も自粛になりましたが、桜の木々はライトアップで人工的な光を当てられなくなって喜んでいるような気がします。

 

今回のウイルスで、今まで見えていた世の中の富や繁栄は、全て幻だったのではないか、そんな空即是色な思いになりました。人類を成長させるための試練なのでしょうか……。

 

根底にある「他人への不信感」

 

でも、人類が目覚めるまでは毒出しのような現象も。

 

最初アジアで疫病が始まった時、欧米人のアジア人への人種差別意識が露わになったり、同じアジア同士でも責任を押し付け合ったり、混沌としてしまいました。

 

さらに、若者と中高年の対立、東京と地方の分断、安全な場所に逃げる富裕層への怒り、とさまざまな分断や不和が生まれて殺伐としています。

 

その根底にあるのが、他人への不信感なのではないでしょうか。感染しても無症状の人がいるので、誰がかかっているかわからない状況で、人と会う時には相手にうつされないか心配になってしまいます。自分以外信じられない、いや、自分すらも信じられない状態です。また、道で知らない人とすれ違う時も、その人がマスクをしないで大声で会話していただけで敵意がわいてきたり……。

 

人間関係でネガティブな感情がわきおこりがちですが、ウイルスはネガティブな人に引き寄せられる説もあるので気を付けたいです。咳をしている人を睨んだりせず、いたわりの気持ちを持つようにしたいです。心までウイルスに染まらせたくないものです。今のように感染した人数を数字だけで報じていると、クラスターや感染者について忌避や嫌悪の感情ばかりわいてしまうのも問題です。

 

先日、中国の研究で、コロナから回復した人の血液から血漿(けっしょう)を抽出し、重症患者に輸血したら症状が改善したという情報を目にしました。かかった人の血漿が救いになると思えば、感染者を忌まわしがる空気も軽減されるのではないかと願っています。いつ自分がそうなるかわからないので……。

 
ウイルスが消えたあとの世界

 
外出自粛や複数の人と会う自粛が出る前は、たまに何人かの友人、知人と会う機会がありました(それでもかなり機会が減っていましたが……)。

 

最初は一抹の不安があり、会話でさり気なく最近の行動を探ったりして、海外渡航歴があったら警戒したりしていました。ある会議でお医者さんと会話した時は、患者さんとどのくらい接触しているか聞いて、基本、直接触ったりしないとのことでホッとしました。海外から帰ってきたという女友達は、サイキックの人から「あなたは絶対に疫病にかからない」と言われたそうで、安心して会食しました。

 

そうやって少数で集まると、このような非常時なので、お互い同じ悩みや不安を持つ者として距離が縮まった感じがします。それぞれコロナに効くと言われているものの情報を交換し合ったり、数ヶ月前はコスメの話題を情報交換していたのが異次元のできごとのようです。柑橘類が良いとか、豚肉はあまり食べない方が良いとか、アオサが良いらしいとか、どこどこにトイレットペーパーが売っていた、とか様々な情報が飛び交います。

 

反対に、友人を疎遠にしかねないのがデマ情報です。

 

「同級生の甥が、修士号を取得して卒業し深セン病院で働いていて、そのあと武漢に転勤になりました。彼からの情報です」「友人の友人が幼稚園のママ友に政治家と太い関係の人がいて……」といったようなLINEがいくつか回ってきました。

 

文体からちょっと怪しさがにじみ出ていたのですが、結局デマだったと判明。デマを教えてくれた人にそのあとうやむやにされると、しばらく心のどこかに引っかかってしまいます。やたら長文の、おかしな文体のメールが来たらすぐに転送せず、検索して情報収集した方が良さそうです。

 

人間関係でポジティブな面といえば、お互い虚勢を張らず、悩みや苦しみをさらけ出しても良い風潮になったことでしょうか(時々まだ威圧感や虚栄オーラを漂わせている人がいますが……)。

 

今は戦争のような状態だと言われます。誰もが仕事が減ったり、収入が心配になっているご時勢なので、人と会うと開口一番「何か影響あった?」と聞かれたり、「講演会がいくつか飛んで、子どもの塾の費用が払えないかも……」と、自分から窮状を打ち明ける人もいます。

 

近寄りがたく感じていた知人に「講演会の仕事がなくなって暇だからLINEしましょう」と話しかけられたり、LINEグループでも「のりこえましょう」と励まし合ったり、お互いさらけ出すことで絆を感じる場面が多いです。

 

こうやって少しずつ、不幸中の幸い的なポジティブな面を見つけていけば、免疫力も高まるのではないかと思います。ウイルスが消えたあとの世界が、きっと平和で人間の意識も進化していて素晴らしい世の中になっていることを祈って……(それまで脱落しないようがんばります)。

 

今月の教訓
ウイルスで露呈する人間関係の光と闇。闇を引き寄せないよう、慈愛の心を発動したいです。

 

 

新・人間関係のルール

辛酸なめ子(しんさんなめこ)

1974年東京都生まれ。埼玉県育ち。漫画家、コラムニスト。女子学院中学校・高等学校を経て、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。恋愛からアイドル・スピリチュアルまで幅広く執筆。著書に『女子校育ち』(ちくまプリマー新書)、『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)、『辛酸なめ子と寺井広樹の「あの世の歩き方」』(マキノ出版)など多数。
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