スポーツみたいに爽快なアメリカン・パンクの爆発【第30回】著:川崎大助
川崎大助『究極の洋楽名盤ROCK100』

戦後文化の中心にあり、ある意味で時代の変革をも導いた米英のロックミュージック。現在我々が享受する文化のほとんどが、その影響下にあるといっても過言ではない。つまり、その代表作を知らずして、現在の文化の深層はわからないのだ。今を生きる我々にとっての基礎教養とも言えるロック名盤を、作家・川崎大助が全く新しい切り口で紹介・解説する。

 

72位
『ドゥーキー』グリーン・デイ(1994年/Reprise/米)

Genre: Punk Rock, Pop Punk
Dookie-Green Day (1994) Reprise, US
(RS 193 / NME 75) 308 + 426 = 734

※72位、71位の2枚が同スコア

 

 

Tracks:
M1: Burnout, M2: Having a Blast, M3: Chump, M4: Longview, M5: Welcome to Paradise, M6: Pulling Teeth, M7: Basket Case, M8: She, M9: Sassafras Roots, M10: When I Come Around, M11: Coming Clean, M12: Emenius Sleepus, M13: In the End, M14: F.O.D., M15 (Hidden Track): All by Myself

 

パンク・ロック、あるいはその源流となったタイプのロックの原産国と言っていい地でありながら、つねに「パンクを冷遇」していたのがアメリカ音楽界の「メインストリーム」だった。そこに風穴を開け、パンク・ロックを(あるいは、パンク風のロックを)メインストリームのなかへと押し上げたバンドがこのグリーン・デイだ。

 

本作は彼ら3枚目のアルバムにして、初のメジャー・リリース作。全米大ヒット(最高位2位)、グラミー賞にも複数ノミネート(最優秀オルタナティブ・グループ賞を受賞)という、一大出世作ともなった。バンドの代表曲のひとつともなったM7「バスケット・ケース」もシングル・ヒットした。こんな歌だ。

 

「ときどき俺、自分が気持ち悪くなる/ときどき、俺の心が俺を騙す/ずっと続いて、積もり積もって/俺、壊れちゃってるんだと思う/ただの偏執症?/それともただ、ストーンしてるだけ?」

 

グリーン・デイの音楽は、基本的にとても抜けがよく、明るい。憎悪や鬱屈や怨念が、ダークな響きのマイナー・コードを通じて発散されることは、あまりない。晴れ渡ったカリフォルニアの空を思わせる、屈託のない「ポップな」パンク・ロックが彼らの身上だ。まるでスポーツのように快活で楽しい、そんなサウンドのなかで、しかしときに「バスケット・ケース」のような詞が歌われるところに、若いリスナーが敏感に反応した。彼ら彼女らと同じ高さの視点から、青春期特有の「ゆらぎ」のごとき不安感をとらえ得たこの地点から、グリーン・デイの躍進が始まっていった。

 

本作ではM1、M5、M8の人気も高い。この時代、いったいどれほどの数のホーム・パーティで、これらの曲がプレイされたことか。

 

イースト・ベイ、と呼ばれる地域がある。これは「サンフランシスコ市から湾をはさんで東側」という意味だ。オークランド、バークレー、アラメダほか「サンフランシスコ・ベイエリア」一帯の東岸の地域がそこに含まれる。これらの土地ではそもそも音楽が盛んで、ファンクやヒップホップの一大産地でもあったのだが、パンク・バンドも数多くいた。これら「イースト・ベイ・パンク」の出世頭筆頭となったのがグリーン・デイで、同時期に活躍したランシドらとともに、アメリカ社会におけるパンク・ロックの地位向上に、大いに貢献した。

 

次回は71位。乞うご期待!

 

※凡例:
●タイトル表記は、アルバム名、アーティスト名の順。和文の括弧内は、オリジナル盤の発表年、レーベル名、レーベルの所在国を記している。
●アルバムや曲名については、英文の片仮名起こしを原則とする。とくによく知られている邦題がある場合は、本文中ではそれを優先的に記載する。
●「Genre」欄には、収録曲の傾向に近しいサブジャンル名を列記した。
●スコア欄について。「RS」=〈ローリング・ストーン〉のリストでの順位、「NME」は〈NME〉のリストでの順位。そこから計算されたスコアが「pt」であらわされている。
●収録曲一覧は、特記なき場合はすべて、原則的にオリジナル盤の曲目を記載している。

 

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究極の洋楽名盤ROCK100

川崎大助(かわさき・だいすけ)

1965年生まれ。作家。88年、音楽雑誌『ロッキング・オン』にてライター・デビュー。93年、インディー雑誌『米国音楽』を創刊。執筆のほか、編集やデザ イン、DJ、レコード・プロデュースもおこなう。2010年よりビームスが発行する文芸誌『インザシティ』に短編小説を継続して発表。著書に『東京フールズゴールド』『フィッシュマンズ 彼と魚のブルーズ』(ともに河出書房新社)、『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書)がある。

Twitterはこちら@dsk_kawasaki

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