2018/07/30
藤代冥砂 写真家・作家
『ありえない138億年史』光文社
ウォルター・アンバレス/著 山田美明/訳
去年読んだ「サピエンス全史」以来、一般教養として歴史の知識を改めて求める気分が依然としてある中、「ありえない138億年史」を手に取った。
宇宙史から人類史まで網羅する、いわゆるビッグヒストリーを扱った本書は、おそらく一冊には収まりきらないはずの世界全体を、宇宙の始まりから現在の人類へと手際よくまとめてある。
著者は、恐竜絶滅を「隕石衝突説」で証明した世界的な地質学者であり、その専門分野の知見を用いながら、138億年といわれる宇宙史を平易に読み解いてみせる。
読書の喜びは、新しい知識を得ることでもあるが、文系の私にとって、元素記号や数字が適度に用いられながら進められる話は、それだけでも刺激的で、小中高大と通過してきた教育の中で、このように宇宙と出会えていたら、私の中に隠れている理数系の才能が開かれたのかも、などと悔いまじりに思うのであった。
本書の中で、私が最も感銘を受けたのは、宇宙の創生から始まり、地球が生まれ、人類が生まれ、現在に至る歴史の中には、必然など存在せずに、奇跡的な偶然の連続によって今があると語られている点だ。
偶然。私たちが生きるこの現実の世界は、たかが偶然によってできたものに過ぎないというのは、ああやっぱりね、と納得がいく一方で、無力感に近い脱力も感じる。私たちが、努力し、奮闘し、目標を設定したり、反省したりしながら向かい合っている日々の現実は、天文学的な数字を超える奇跡的な偶然の連続によって、たまたま在るだけだとしたら、私たちはその偶然にどんな意味を与えて、今日を生きるための支柱とできるのだろう。
いわゆる理系の本を読んでいると、宗教書に似た感触を毎度得るのだが、要するに人知を超えたサムシンググレイトへと歩を進める共通点があるのだろう。異なるとされる分野もある高みまで登っていくと、似た景色が楽しめる。
歴史を知るとは、時間を軸として振り返るだけでなく、星空を頭上にして見上げるように果てしない空間に吸い込まれていく経験でもある。
読了後に残る、宇宙史が凝縮されている自分という心身への自覚は、ミクロコスモスという言葉を持ち出すまでもなく、ああやっぱりねと、なんとなく自分の存在を宇宙レベルで肯定してくれる。あとは、宇宙の偶然性と同調するちょっとした非常識を日常のポケットにそっと忍ばせるだけである。
これもオススメ!
「地球全史~写真が語る46億年の軌跡」岩波書店
白尾元理/写真 清川昌一/解説
『ありえない138億年史』光文社
ウォルター・アンバレス/著 山田美明/訳