2018/07/31
吉村博光 HONZレビュアー
『カメラはじめます!』サンクチュアリ出版
こいしゆうか/著 鈴木知子/監修
50歳手前なのに子は幼い。小学生と幼稚園児だ。蓄えがあるわけでもないのに、もうすぐ定年なのである。将来を思うと暗澹とした気持ちになるので、将来のことは考えないようにしている。最近は、過去を反省することさえなくなった。
そんな私にとって、最大の関心事は「今」である。
「実存は本質に先立つ」これでいいのだ。
写真は、今を楽しむためのツールである。美しい風景を切り取る。子らと戯れに撮った1枚を眺めて笑う。しかし、である。我が家には、ミラーレス一眼があるのに撮り方がわからず放置されている。スマホ頼みの現状である。数年前から、この状況を改善したいと思っていた。
本書『カメラはじめます!』は、そんな私の救世主になった一冊である。
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これから季節は、夏から秋の行楽シーズンに向かう。私は老体だが、子はかわいい盛りである(しつこい)。今年こそはカメラをマスターしてスバラシイ写真を映して、「パパすごい!」といわせたいと思い、本屋さんを物色していた。
そんな折、ひときわ楽しげな表紙のこの本が、目に飛び込んできた。オーラが漂っている。ただ、ふとオビを見ると「マンガでわかるデジタル一眼カメラの教科書」とあった。
おっと。
正直、私は少し腰が引けた。だって、だって・・・一眼を買ったときにも、わかりやすそうなマニュアル本を私は買ったはずなのだ。でも、駄目だったのである。「教科書(マニュアル)=つまらない」という図式があるではないか。面白くなければ、駄目な私である。
本を開いてめくってみた。撮影例(before/after)も豊富でわかりやすそうだ。しかし、前の失敗に懲りて、なかなかレジまで進めない。「本代はケチるな」が、我が家の家訓であるにもかかわらず。
気がつくと私は、著者「こいしゆうか」の名前をスマホで検索していた。
うほっ。この人、写真家じゃないじゃん!「職業:イラストレーター、キャンプコーディネイター、プロデュース、ライター、漫画家、レポライター」とある。また “「日本酒」の本が出ました”と書かれている。「マツコの知らない世界」への出演履歴も。
私の小さな胸は、一気に安堵感で満たされた。この多趣味でゆるくて楽しげなオーラに促されるように、私は『カメラはじめます!』を冒頭からゆっくりと読みはじめた。すると、読み物としてマンガとして面白いということがわかったのである。
まず冒頭で「カメラを楽しむのに難しいことは一切必要なく、必要なのはある3つのことを覚えるだけ」と断言され、私は、どれだけ安心したことだろう。カメラ初心者の著者が写真家に手ほどきを受け、「ボケ」「明るさ」「色」の3つのコツを覚えるストーリーである。
私が使ってみたとき、一眼カメラの「オートモード」はなんか微妙だった。本書を読めば、そこから卒業して自分の理想に近い写真を撮れるようになるのだ。子供や花などの主役が引き立つ憧れのボケ写真も、テリが輝く美味しそうなお料理写真も、思いのままだ。
本書を読んで、一眼カメラを片手に町へ出よう!
嫌なこともいっぱいある人生だが、今が10倍楽しくなること、うけあいである。
『カメラはじめます!』サンクチュアリ出版
こいしゆうか/著 鈴木知子/監修