言葉は言葉によって洗われる…きっとあと五年は手放さない詩集『ロンメル進軍』

藤代冥砂 写真家・作家

『ロンメル進軍』思潮社
リチャード・ブローティガン/著 髙橋源一郎/訳

 

詩を読む習慣というのは、いいものだ。私は最近つくづく思う。

 

小学校や中学校の教科書の中にあった詩にはあまり馴染めなかったが、ある程度大人になって手にした詩の中に、その後の人生(大げさだけど)を動かす力があってくれて、本当に良かった。
何しろ、言葉というのはだいたい常に私たちの頭の中にあって、主に対する影響力たるや絶大だ。いわば心の血液みたいなもの。血液ならば、きっとサラサラな方がいい。濁っていたりしない方がいいはずだ。だから時々は車のオイル交換みたいに、言葉も洗う必要がある。私はそう思う。

 

言葉は言葉によって洗われる。なにやら警句みたいになってしまったが、良い詩を丁寧に何度も繰り返し読んでみれば、きっと分かる。洗われた言葉に満ちた心も、きっと洗われて綺麗になっているに違いない。

 

形ばかり整えられた言葉で他人と接することは行儀こそいいが、なんだかきまりが悪い。発せられた言葉が、その人の心とちゃんと繋がっているなと感じられる時、私はその人に安心と信用を感じる。
それは自分に対しても同じで、心語一致でいられる時は、自分を好きだなと思える。

 

で、詩を読む習慣というのは、お気に入りのサッカーチームを持っているように、お気に入りの詩人の、愛すべき詩をひとつぐらい持っていて、時々古本屋で一時間ぐらい立ち読みして、一冊買って帰るようなことである。

 

リチャード・ブローティガンの「ロンメル進軍」には、76篇の詩が収められている。どれもオリジナルの英語原文付きである。しかも翻訳は高橋源一郎さんである。私はきっとこの一冊をあと五年は手放さないと思う。

 

で、せっかくなので、収録されているブローティガンの詩をひとつ紹介。
タイトルは「死につつあるきみが最後に思いうかべるのが溶けたアイスクリームだとしたら」で、詩はこんな感じだ。

 

“そうだな
そういうのが人生かもな”

 

以上、とても短いのだ。まるで早死にした人の人生のようにだ。

 

 

これもオススメ!
リチャード・ブローティガン「東京日記」平凡社

 

 

『ロンメル進軍』思潮社
リチャード・ブローティガン/著 髙橋源一郎/訳

この記事を書いた人

藤代冥砂

-fujishiro-meisa-

写真家・作家

90年代から写真家としてのキャリアをスタートさせ、以後エディトリアル、コマーシャル、アートの分野を中心として活動。主な写真集として、2年間のバックパッカー時代の世界一周旅行記『ライドライドライド』、家族との日常を綴った愛しさと切なさに満ちた『もう家に帰ろう』、南米女性を現地で30人撮り下ろした太陽の輝きを感じさせる『肉』、沖縄の神々しい光と色をスピリチュアルに切り取った『あおあお』、高層ホテルの一室にヌードで佇む女性52人を撮った都市論的な,試みでもある『sketches of tokyo』、山岳写真とヌードを対比させる構成が新奇な『山と肌』など、一昨ごとに変わる表現法をスタイルとし、それによって写真を超えていこうとする試みは、アンチスタイルな全体写真家としてユニークな位置にいる。また小説家としても知られ著作に『誰も死なない恋愛小説』『ドライブ』がある。第34回講談社出版文化賞写真賞受賞

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