akane
2019/08/15
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高橋久仁子『「健康食品」ウソ・ホント』(講談社ブルーバックス)2016年
連載第23回で紹介した『月をめざした二人の科学者』に続けて読んでいただきたいのが、『「健康食品」ウソ・ホントーー「効能・効果」の科学的根拠を検証する』である。本書をご覧になれば、いわゆる「健康食品」で本当に健康を買うことができるのか、「フードファディズム」とは何か、知らず知らずのうちに悪質な「機能性表示食品」広告に騙されていないか、明らかになってくるだろう。
著者の高橋久仁子氏は、1949年生まれ。日本女子大学卒業後、東北大学大学院農学研究科博士課程修了。群馬大学教授を経て、現在は群馬大学名誉教授。専門は栄養学・教育学。内閣府食品安全委員会リスクコミュニケーション専門調査会委員。食品表示の科学的根拠に関する研究で知られ、『「食べもの神話」の落とし穴』(講談社ブルーバックス)や『フードファディズム』(中央法規出版)などの著書がある。
1952年、懐疑主義者として有名な数学者マーティン・ガードナーが『奇妙な論理』(In the Name of Science)を著し、疑似科学の一環として「フードファディズム」(food faddism)を批判した。この言葉を日本に紹介したのが、高橋氏である。
「フード」(food)は「食物・栄養」であり、「ファディズム」(faddism)は「大流行・熱狂」を意味する。「フードファディズム」とは、「食物や栄養が、健康や病気に与える影響を、熱狂的あるいは過大に評価し信じること」と定義される。
たとえば、ある日の朝食に1パックの納豆を食べることは、ごく普通の食行動だろうが、「納豆を食べると痩せる」という流行に踊らされて毎日10パックを食べるようになれば、「フードファディズム」に陥っているということになる。
これさえ食べれば「痩せる」あるいは「万病に効く」といった健康への好影響を吹聴する食品の大流行は、「紅茶キノコ」(1975年)、「酢大豆」(1988年)、「ココア」(1996年)、「にがり」(2003年)、「寒天」(2005年)、「白インゲン豆」(2006年)、「納豆」(2007年)、「バナナ」(2008年)、「トマトジュース」(2012年)と続いた。
食品は多くの成分で構成されている。ここで注意しなければならないのは、「有益(有害)な成分が含まれているから良い(悪い)食品」のように、消費者が「定性的」な二分法で判断してしまう傾向である。しかし、より重要なのは、食品に含まれる成分が「どの程度意味のある量なのか」を「定量的」に判断することなのである。
「タマネギから分離抽出したS-メチルシステインスルホキシドを経口的に45日間糖尿病ラットに投与したら血糖値が低下した」という研究論文が1995年に発表された。この論文から「タマネギは血糖値を低下させる物質を含む」と一応は言える。
しかし、そこで短絡的に「タマネギを食べれば血糖値が下がる」と結論付けられない点にお気付きだろうか?
この論文の実験では、タマネギから「分離抽出」したS-メチルシステインスルホキシドをラットに与えたわけだが、その抽出量を体重50kgのヒトに換算すると、なんと50kgのタマネギに含まれる量なのである! つまり、この論文から推論できるのは、ヒトが自分の体重と同程度のタマネギを45日間摂取し続ければ、そのヒトの血糖値が下がるであろうという結論にすぎない。
国は「特定保健用食品(トクホ)」(1991年)、「栄養機能食品」(2001年)、「機能性表示食品」(2015年)という制度を次々と設定し、食品の栄養成分や機能性を表示できるようにした。ところが、それらの広告の科学的根拠を個別に調査すると疑問だらけだというのが、高橋氏の結論である。本書には、具体的な食品名も挙げられている。
食品というものは本来、私たちにおいしさと栄養素を提供してくれるものであり、これが最も重要な役割です。しかし、昨今の世の中には、食品に対する「機能性幻想」が蔓延しています。食品中に含まれる、栄養素ではないけれど、病気の予防や健康維持に有効ではないかと類推される物質が「機能性成分」としてもてはやされ、それを摂取すれば、容易に健康が得られるかのような“錯覚”です。(P.3)
そもそも健康食品における「機能性」とは何か、真の「健康」に必要な「栄養・運動・休養」の意味を理解するためにも、『「健康食品」ウソ・ホント』は必読である!
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